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仕事と介護の両立コラム 社内介護者ネットワーク構築の意義と課題

2020.10.22

幸いなことに、私は企業や官公庁主催の仕事と介護の両立セミナー等に登壇する機会をたくさんいただいています。セミナーは介護者支援の一つの手法として確立しつつあると手ごたえを感じています。貴重な機会を作っていただける主催の皆さまには心より感謝申し上げます。ありがとうございます。
このような、仕事と介護の両立セミナー等と行うと、アンケートという形で参加者の感想やご意見を頂くこともあります。その中には「社内の介護者の経験談が聞きたい」「社内で介護経験者ネットワークを作りたい」というものが必ずあります。
このことについて、介護者支援者の端くれとして意見を述べさせていただきます。

登壇者である私が現役の介護者

私はいまなお、埼玉の実家でレビー小体型認知症のある母(80)と2人暮らしをしています。いわゆるケアラーです。
この事実に加えて、私の性格上の理由で「ストレートな表現」「歯に衣着せぬ物言い」のため、セミナーをすると「勇気をもらった」「経験者の話は説得力が違う」というお声を頂くことが多々あります。また、「仕事と介護の両立には不安はあるが出来そう」と感じていただける方も多いです。これは、私が介護経験者であり、仕事と介護の両立をはかりなながら、今なお母の介護に携わっているが故の事です。
セミナーの自己紹介では「いまこの時間、母はデイサービスにいます。16時30分ぐらいに帰ってきます」「今この時間、母はショートステイにいます。明後日の17時ぐらいに帰ってきます」という話を必ず入れます。すると、会場の参加者は(最近はオンラインが多いですが)、うんうん、とうなずき、状況を飲み込んでくださります。
このように、仕事と介護の両立をしているひと目の当たりにする機会が少ないがゆえに、他の介護者の話、というよりも「仕事と介護の両立をしている人の話」を聞きたい、という要望がでるのは、ある意味当然なのかもしれません。そして、その「仕事と介護の両立をしている人」が「自社のひと」であれば、さらに自分がケアラーになった時の働き方をイメージしやすい、という思いから「社内の介護経験者の経験談が聞きたい」という声になっていると推測できます。

ケアラーはいい人が多いです

仕事と介護の両立をしているケアラーはいい人が多いです。いい人というのは、人に対して心から感謝出来る人ととらえてください。
仕事と介護の両立をしている人の多くは、要介護者が介護サービスを利用しています。ケアスタッフのご尽力を間近で見ているので、日々奮闘する姿から、尊敬のまなざしになり、そして感謝の気持ちが膨らんでいきます。
ケアスタッフだけではなく、時にはご近所の方や親族、医者、いろいろな方のお力添えを頂きます。要介護者を支えてくださる、多くの方々への感謝の念は尽きません。
良くも悪くも、介護が始まる前には感じたことのない想いや現象を目の当たりにする事で人生観や価値観が変わる方が多いように感じます。
そんなケアラーに「あなたの介護経験を社内セミナーで話してもらう事はできますか?」と協力依頼をすると
「自分の経験が誰かのお役に立つのであれば」と言ってひと肌ふた肌脱いでくださる方は多いです。
まさに「施されたら、施し返す。恩返しです。」の気分です。

プレゼンターを矢面に立たせない

「社内の介護経験者にお話をしてもらう」という企画は、私は大賛成です。
理由としては「介護していることをオープンにしやすくなる」「仕事と介護の両立に希望が持てる」「同じ企業文化の中で働くものとして、仕事と介護の両立イメージがつく」などあります。私が話をするよりも何十倍も何百倍も効果があると思います。
ただし、注意事項もあります。それは「プレゼンターを矢面に立たせない」工夫が必要ということです。
皆さんも経験があると思いますが、どんなプレゼンでも賛否は必ずあります。「ありがとう!参考になった!」という意見もあれば「うちの部署ではできない」とか「結局、何が言いたかったの?」とか、プレゼンターであるケアラーを傷つける可能性のある意見も当然ながら出てきます。
そして何より、ケアラーのご家庭における「介護」について意見をして来る方もいる、ということを前提にしてください。
従業員であるケアラーも「自分が何を言われてもいいけど、介護のこと、つまりは親の事をいわれるのはつらいです」ということです。
『育児やキャリア上での苦労話は自分の話で、笑い話にもできますが、介護の話は自分の親の話ですものね』と理解を示してくださった某企業の人事担当者様には感謝しかありません、
なので、社内の介護経験者にお話をしてもらう企画を作った担当部署の責任者は、プレゼンターになってくれるケアラーに対して必ずフォローを入れてもらうこと、そして、不都合な声を耳に入れないような工夫を求めます。過剰な配慮かもしれませんが、特に現役のケアラーに依頼するときは慎重に対応してください。
繰り返しますが、私は「社内の介護経験者にお話をしてもらう」という企画には大賛成なのです。
介護経験者の経験談には価値があります。その価値を介護経験者自身に感じてもらいたいと私は強く思っています。
そのためには、介護経験をプレゼンする場というのは、絶好の機会なのです。リスクをわかったうえで、上手に運営していただきたいと願っています。

社内介護者の会の開催について

社内介護者の会の開催についても、私は大賛成です。介護の話って、介護経験のない人にはなかなかわかってもらえないし、吐き出しのつもりでお話していたら、ドン引きされても困るし、参加者から尋問されてもメンドクサイですしね。
つまり、ディープな介護の話ができるところって案外少ないのです。さらに、仕事と介護の両立をしていると、参加出来る介護者の会ってちょっと少ないのが現実なのです。
だから社内に介護の会があったら、嬉しい人はいると思います。ただし、こちらも運営は簡単じゃないということだけお伝えします。

いわゆる「介護者の会」と「社内介護者の会」は違います。

まず、介護者の会は、主催者側の意図とは関係なく参加目的は様々です。情報収集目的の方もいれば、繋がり、居場所、おしゃべり、ストレス発散、安心感、友達作り、とにかくいろいろな目的でお越しくださいます。参加者も働いている人ばかりではないですし、年齢層もバラバラです。開催場所や日程も主催者によってまちまちです。私のやっている介護者の会はオンラインの月1回の土曜日昼間の介護者の会と月1回の水曜日の夜の介護者の会です。また、私の介護者支援の原点である「働く介護者おひとり様介護ミーティング」は原則東京の池袋会場での開催で奇数月第3土曜日と決まています。
一方、社内介護者の会の場合、参加者は会社の人だけ、というのが最大の違いです。
主催部署が人事部だったり、組合だったり、有志だったりといろいろです。主催部署によって日程も趣旨も違います。
はっきり言いますが、介護者の会は運営が要です。
運営がいるから、参加者が集まってくれます。社内介護者の会の立ち上げは会社が手伝って、その後は参加してくれた介護経験者達に運営を任せよう、というのはなかなか難しいです。
そもそも主催者に手を挙げる人が少ないと思います。会社が主催してくれるから参加するのであって、主催したいわけではないのです。
日程調整や場所の確保、参加者募集にさらにはファシリテートと、主催者にはやることが多いのです。
それに、もしあなたが主催者になったら、介護経験者にはたくさん集まってほしいと思いますよね?!誰も来なくても、開催しよう、とはなかなか思わないでしょう。
でも、介護者支援団体の主催する介護者の会は「決まった時間の決まった場所に行けば、話せる場所がある」が第一の目的だから、誰も来なくても開催するのです。
これって、凄いことなのです。
それを社内の仕事と介護の両立をしている、またはしていた介護経験のある有志がずっとできるか、ということを考慮してください。
社内介護者の会の企画が尻つぼみになって消滅しまうのは仕方がないと思います。
つまり、社内で介護者の会の立ち上げを企画するのであれば、主催者と目的を明確にして、定期開催なのか、臨時開催なのか、1年間限定なのか、そういったことを決めてからの方が気楽に始められると思います。
また、介護者の会には、ファシリテーターがいた方がいいです。
限られた時間の中で、参加者に「参加してよかった」と思ってもらうためには、当日の運営=ファシリテートが最も重要です。
介護者の会でのおしゃべりを放置しておくと「そんな介護は甘いわよ!」と人の介護経験に意見する人も出てくるかもしれないし、長々と一人で話し続けてしまう介護経験者もいます。それを采配すのがファシリテーターです。
繰り返しますが、社内介護者の会の開催について、私は大賛成です。主催者の脳内想定範囲を広くもってあまり意気込まないことがポイントかな、と思います。

社内介護者ネットワークのススメ

仕事と介護の両立支援に対しての要望として「社内の介護経験者ネットワークを作ってほしい」も多いです。これも私は大大大賛成です。
介護経験者の一番の不安と言っても過言ではない精神的な負担に対して、理解を示してくれるケアラーがそばにいると思えるだけで心強いです。
ただし、社内介護者ネットワークも利用者によって目的や活用方法が異なることを、運営側は理解しておかなくてはいけません。
「父の徘徊に正直困っています」「通院同伴って介護休暇使えるんでしたっけ?」「車椅子での遠出の工夫を教えてください」とか、いま聞きたいこと、いま話をしたいこと、いま共有したいことを問いかけるとレスポンスしてもらえるネットワークを求めている人もいれば、
いわゆる「名簿」的なもので、ケアラーがどこの部署のだれのかがわかる、だけのネットワークを求めている人もいるし、
利用しているケアラーのニーズなどが一目でわかり、質問や相談やおしゃべり対応します、役に立ちたいです、という趣旨でマッチング出来るネットワークを求めている人もいます。運営ルールも必要だし、管理者も必要でしょう。
これまた繰り返しますが、社内介護者ネットワークの構築は大賛成です。
現役のケアラーの精神的負担は図りしれません。それゆえにしゃべりたいニーズ、聞きたいニーズ、知りたいニーズ、想いの共有をしたいニーズ、経験を活かしたいニーズがあるので、そのニーズを満たすような安全で心地よいネットワークができるといいと思います。

ちなみに・・・

私には会社という属性はないので、自分で作った介護者ネットワークが「ケアラーズコンシェル」なのです。会員制なので安全性が担保されています。声によるおしゃべり、文字によるおしゃべり、みんなに質問、個別の質問、調べたいこと、学びたいこと、便利なツールに最近の世の中の動き、などがわかる介護者支援ツールです。
現役介護者として、働く介護者として、自分の欲しいものを詰め込んだ介護者支援ツールなので、多くのケアラーの心とニーズには引っかかるはずです。
ぜひお試しあれ!

会員制有料介護者支援ツール「ケアラーズコンシェル」
https://carers-concier.net/

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