仕事と介護の両立コラム 仕事と介護の両立支援のKPIは「利用率」ではなく「周知率」が適しています!
仕事と介護の両立支援に取り組むにあたり、人事部としてのKPIの設定についての相談が時々あります。
KPIの設定は人事部のやる気に直結しますし、当然、仕事と介護の両立支援の結果も出やすいです。
ワーク&ケアバランス研究所は人事部の右腕として、貴社の経営課題に取り組みますので、そんな相談もウェルカムです!
KPIとは
KPIとはKey Performance Indicatorの頭文字をとった言葉で、重要業績評価指標と訳されます。
ひと昔前は数字による目標は営業部だけでした。
しかし、管理部門や日常業務も数値化することで、人事評価に対する納得感や組織成長に効果を発揮している経営手段のひとつです。
これは、目標達成までのプロセスの数値化であり、最終目標のKGI(Key Goal Indicator)とは異なります。
人事部や管理系の部門だと、数値目標が立てにくく評価が客観的指標ではなく、評価する人の「感覚」に頼っていた時期もあったのではないでしょうか。
最終目標であるKGIを達成するために、途中目標となるKPIを具体的な数値で設定することで、より効率的かつ具体的に目標達成のための行動に移せるようになります。
仕事と介護の両立支援を数値化する
仕事と介護の両立支援に関する数字というと、「介護休業の取得率」や「介護離職者」ということが思い浮かぶのではないでしょうか。
確かに数値にはしやすいですが、この数値はKPIとしては好ましくないと考えます。
まず「介護離職」というのは結果です。つまりKPIではなくKGIです。『介護離職ゼロ』というKGIのためのKPIを設定すべきです。
一方「仕事と介護の両立」とは状態を言います。家族の介護を抱えていても会社を辞めていない状態、これが仕事と介護の両立ということです。この「状態」を続けることが『介護離職ゼロ』に繋がっていくため、こちらの方がKPIとしてはふさわしいでしょう。
介護休業の取得率がKPIにそぐわない理由
育児介護休業法に基づく介護休業とは「労働者が労働の義務を免除してもらうための申請ができて、事業主は労働者の条件が労働の免除申請に適応していればそれを拒否してはいけない」という制度です。労働者(働く介護者である従業員)が利用してこその制度です。
そんな介護休業制度ですが、介護休業の取得率を上げることが「良し」とされるのか、取得率を下げることが「良し」とされるのかも不明瞭です。
これは厚生労働省委託調査「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 労働者アンケート調査結果」です。
介護休業制度の利用状況についての設問です。正規労働者をはじめ、働いている方の介護休業の利用率に比べ、離職した人の介護休業の利用率は倍以上高いという結果が出ています。
因果関係は不明瞭なので「介護休業を取得したから離職した」とは言い難いですが介護休業の取得率の向上が、必ずしも介護離職ゼロという結果を導くわけではないことは明らかだと考えます。
(令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 労働者アンケート調査結果より引用)
つまり、仕事と介護の両立において、介護休業は使い方によっては仕事と介護の両立を支援するし、使い方によっては介護離職へいざなう危険性のある制度であることも理解すべきでしょう。
余談ですが、介護休業の取得の前には、必ず面談を行って介護休業の利用目的や段取りの有無を確認することが「介護離職ゼロに向かう介護休業の許可の出し方」だと考えます。
これらの理由から、介護休業の取得率の変化が必ずしもKGIである『介護離職ゼロ』に向かっているわけではないことがわかると思います。従って、介護休業の取得率をKPIに設定するのは好ましくないのです。
仕事と介護の両立支援で数値化できることは何?
では仕事と介護の両立支援において数値化できることは何でしょうか。
それは介護休業制度そのものの周知率です。
そもそも仕事と介護両立支援の対策とは、次の内容を指します。
〇周知対策
〇相談対策
〇職場作り
周知対策において「周知徹底」してくださいと伝えていますが、周知徹底とはつまり「知らなかった」をなくすことです。
「青信号は進め、赤信号は止まれ」と言うのは日本人の常識として根付いており、ほとんどの人にとって「知らなかった」と言うことはないでしょう。
「周知徹底」の目指すところはこれです。
では何を周知徹底するのか、これが仕事と介護の両立の肝です。
仕事と介護の両立支援における周知対策は、最低でも以下の3つのことを周知徹底します。
1.介護の合言葉「介護と言えば地域包括支援センター」
2.介護休業等の制度目的と制度内容
3.仕事と介護の両立とはと言う概念
この3つの事項の周知率を高めることをKPIとして設定することをおすすめします。
特に「2)介護休業等の制度目的と制度内容」については厚生労働省委託調査「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 企業アンケート調査結果」を基準としてもいいかもしれません。
以下の図は先のアンケート調査結果の一部です。
(令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 企業アンケート調査結果より引用)
上記のグラフは、介護休業の考え方についての設問に対する回答を集計した結果です。
厚生労働省としては介護休業の取得目的を「主に仕事と続けながら介護をするための体制を構築する期間」として推奨しています。
(法律としては取得理由まで規程はていないので、あくまでも「推奨」としています)
つまり、以下の図から「A」「どちらかというとA」の回答41.6%(全体)を基準として貴社の従業員の周知率の善し悪しを評価することが出来ます。
KPIの設定の前に、まずは社内の実態調査をしてもいいかもしれないですね。みなさんの会社は厚労省の調査を基準にしたときにどの立ち位置に居るのでしょうか。
なお、弊社では実態調査のお手伝いもできますのでお気軽にお声掛けください。
今日の最後に「#介護と言えば地域包括支援センター」拡散にご協力ください
6月19日に発表された厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」にも明記されていますが、具体的な対応方針として次のような文言が明文化されています。
____________________________________
介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の周知の強化等
(引用:厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」)
____________________________________
仕事と介護の両立支援は「周知徹底」の作業なのです。仕事と介護の両立は文化創造の作業です。
「知らなかった」が「そうだった!忘れてた!」「そうだった、思い出した!」という段階を経て「当たり前じゃん」になった時、介護をしながら働くことが当たり前の社会となってるのだと思います。
そんな未来を創るために今日から介護の合言葉「介護と言えば地域包括支援センター」の拡散にご協力ください!
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