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仕事と介護の両立コラム ウェルビーイング経営と仕事と介護の両立支援

2023.03.01


労働契約を締結している方にとっての仕事と介護の両立は労働の義務を遂行しながら、介護に関わることです。
しかし「そんなんじゃ介護が出来ない」「やっぱり仕事と介護の両立なんて無理な話なのですね」という声も少なくありません。
「自らの時間や労力を割いて、介護に勤しみながら仕事をすること」を仕事と介護の両立と捉えているのかもしれないし、そう思ってなくても「そうせざるを得ないでしょ!」って思っているのかもしれないのです。

ウェルビーイング経営とは

「ウェルビーイング経営」とは、身体的な健康状態や精神的な健康状態としての生活習慣病やメンタルヘルス不全の予防だけでなく、社会的にも健康な状態という意味で仕事のやりがいや組織へのエンゲージメントを高めて、生産性を上げていこうという経営手法のことです。

近年「ウェルビーイング経営」が人事系のキーワードになっています。
ウェルビーイングとは1948年に設立されたWHO(世界保健機関)の憲章に記された健康の定義
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000026609.pdf
HEALTH IS A STATE OF COMPLETE PHYSICAL, MENTAL AND SOCIAL WELL-BEING AND NOT MERELY THE ABSENCE OF DISEASE OR INFIRMITY.

がもととなっており
直訳すると次の通りです。

健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、單(ひとえ)に疾病又は病弱の存在しないことではない。
整理すると、ウェルビーイング経営とは、身体的・精神的健康状態を維持して企業成長に活かそうという考え方です。

仕事と介護の両立支援とは

労働者にとっての仕事と介護の両立とは、労働契約に基づく労働の義務を遂行しながら、介護に関わることです。そして、その仕事と介護の両立を支援することを仕事と介護の両立支援といいます。

企業が出来る仕事と介護の両立支援は労働者が労働の義務を遂行できるような環境整備に力を貸すことです。具体的には、次の3つが挙げられます。

●家庭の環境整備
●心身の環境整備
●職場の環境整備

この3つの環境整備に力を貸してあげることが、企業側の仕事と介護の両立です。

家庭の環境整備

「家庭の環境整備」とはいわゆる、介護体制づくりです。介護体制づくりにおいて会社が出来る事は情報提供であり、環境整備に伴う労働の免除です。

介護に直面した時に誰に相談したらいいのかわからない方はたくさんいらっしゃいます。そんな従業員に対して、企業からの「地域包括支援センターに相談に行ってみたら?」という声掛けは重要な情報提供です。

「入院した」という言葉を耳にしたら、病院の相談室に行ってくるといいよ、と言っていただくだけで情報提供になります。

その声かけの時に「病院や地域包括支援センターに相談に行くのであれば、介護休暇を使うといいよ」までをセットとして、育児介護休業法における各種制度の利用を会社の側から積極的に促進できる仕組み作りがあると、なおいいです。

従業員にとって大事なご家族の体調不良や介護は、精神的に不安定になることが多く、精神的な不安定さが仕事に影響を及ぼすことはよくあります。そのため、人事部や管理職など、従業員の状態を把握できる立場の方には必要最低限の知識は持っていて欲しいです。研修などの機会があるといいと思います。

要介護者の生活の安定のためには介護体制づくりは必須の作業です。特に専門職の方が介護体制に加わるだけで、介護に直面した方の心の負担は一気に軽くなります。つまり介護体制づくりの作業にスムーズに取り組めるかどうかは従業員の心の健康にとっても重要なことなのです。

「要介護者のことを極力意識しないで働ける環境を作る」ことは、介護の直面した労働者の役割の一つです。そのための情報提供はウェルビーイング経営的にも見逃せない観点です。

心身の環境整備

介護に直面している人の多くは精神的な負担を常に抱えています。介護は生活であり、生活の連続が人生です。

自分以外の人の人生を改めて考え、自分以外の人の人生に改めて寄り添うという作業は、恐怖や不安の連続です。特に自分より年上の方、つまり親などの介護に関わる場合は、いやでも「老い」や「生命」を直視させられます。恐怖や不安を感じても無理はありません。

しかも寄り添う相手が要介護者となれば、コミュニケーションもままならないことも多く、なかなかの精神的ストレスになります。これらの精神的な負担を抱えながら、日々の業務に勤しむには家族はもちろんのこと、従業員の周りにいる方々が心の支えになることがとても重要です。

ここで注意ですが「心の支えになること=介護の不安を取り除くこと」だけではありません。そしてウェルビーイング経営的な考え方をすれば、不安を取り除くことが健康な状態なわけでもないのです。介護経験者の声を拾うと「介護をしてきたことは決してマイナスではない。自分を成長させる機会になった」という人は意外に多いです。

タイムマネジメント術しかり、コミュニケーション術しかり、ビジネススキルが向上したという声や「自分で言うのもなんですが、器が大きくなった気がする」「考え方が柔軟になった気がする」「介護のつらさを想えば繁忙期なんかなんでもない(笑)」など、介護のある生活は人生を豊かにすることもできます。必ずしもネガティブなことばかりではないのです。

心身の環境整備に力を貸す場合、介護の外部相談窓口の設置等で介護の不安を取り除くことだけではありません。介護に直面した従業員が仕事を通して、自己の成長を感じたり、仕事と介護の両立が出来ていたりして幸福感を持てるようにすることが大事です。

これらはまさに、ウェルビーイング経営的な仕事と介護の両立支援の観点ではないでしょうか。

職場環境整備

仕事と介護の両立支援において、企業が最も力を発揮できる環境整備が職場の環境整備です。
在宅勤務制度や短時間勤務の制度を導入、介護研修の実施や外部介護相談窓口を設置など、いわゆる介護施策は使い方を間違えるとウェルビーイング経営とは真逆の結果を招きます。

例えば「在宅勤務」。『在宅勤務であれば、仕事と介護の両立はしやすい』と思われがちですが、使い方を間違えると事件事故を誘発する原因になり得ます。
多くの方は初めての介護です。介護のある生活がどんなものなのかを知りません。知らないのに「在宅勤務であれば仕事と介護の両立はしやすい」という言葉だけが流通している事実に大変危機感を感じています。

「在宅勤務であれば仕事と介護の両立はしやすい」という言葉が示す「介護」は、おそらく直接的な介護です。つまり直接的な介護に関われば、当然ながら労働はできません。労働の義務を遂行できないのです。

労働の義務を遂行できないがゆえに、仕事が進みません。ゆえに、要介護者の就寝後等に仕事をするので、深夜の作業になります。場合によっては残業になります。

そして当然ながらご自身の寝る時間は削られます。仕事が思うように進まないストレスに体調不良、そしてコミュニケーションがままならない要介護者との生活・・・・事件・事故に発展していく予感しかありません。

同じく「介護休業」もそうです。「介護休業は1年間」と、会社独自の制度を設けている企業があります。それ自体は全く問題ありません。

問題は介護休業の申請があったら、面談なく許可を出すことです。つまりそれは介護休業93日の法定内の企業においても同じです。

確かに、介護休業の取得目的までは法律で規定されていません。なので「直接的な介護に関わりたいから介護休業を取得したい」という理由でも、その労働者が介護休業を取得するための条件をクリアしていれば事業主は許可せざるを得ません。また、面談したからといって、先の理由の労働者が介護休業の申請を取り下げることはそうそうないでしょう。しかし、面談を通じて家庭環境の整備に力を貸すこと、ご本人の心身の環境整備に力を貸すこと、職場の環境整備に力を貸すことはできるのです。

従業員が望むからそれを許可した=従業員にとっての幸せ、とは言い切れません。

多くの方が初めての介護です。休業をして介護に向き合う日々がいかなるものか、想像はできていない事が多いでしょう。

もちろん「仕事をしなくていい」という環境は、仕事と介護の両立のストレスから解放はしてくれます。しかしながら、同時に、見えない職場への不安、自分が居なくても回っていく職場への不安もあるはずなのです。

であれば、心の健康のためにも無下に休むのではなく、やることを決めて必要な分だけ介護休業を取得することで、結果として充実した日々を送れることも有るのです。

しかし、介護初心者にそんな発想さえないのが普通でしょう。ですから、介護休業の申請があったら、会社はウェルビーイング経営的な観点からも面談をすべきなのです。

そして、仕事と介護の両立支援における職場環境整備は介護施策のようなものだけではなく、ある意味足かせである「介護」があっても結果が出せる仕組み作りをすることがウェルビーイング経営です。

介護に直面している従業員がイキイキと働ける職場、介護に直面している従業員が結果を出せる職場は、今後介護がはじまるかもしれない従業員にとっても安心して働ける職場であることは間違いありません。

職場は「健康を維持する大切な空間」です。これは、介護初動期にはわからない感覚かもしれませんが、介護に直面して一山超えた介護経験者の多くが感じる事です。

「仕事があってよかった」「家から出るきっかけがあってよかった」と、仕事は心の健康に大きく寄与しています。

ウェルビーイング経営的仕事と介護の両立支援

「仕事と介護の両立支援」というと、介護を受ける要介護者のことを考えがちですが、仕事と介護の両立を実行するのは従業員です。

介護に直面している従業員というだけで、「お母さん元気ですか?」「お父さんの具合はいかがですか?」「パートナーのご様子はいかがですか」と言われがちです。そうではなく、最低でも第一声目は目の前の従業員に声をかけてください。「仕事は順調ですか?」「しっかり睡眠をとっていますか?」と。

ウェルビーイング経営とは従業員の幸福感に目を向けた経営手法です。その観点をもって仕事と介護の両立支援に取り組んで欲しいものです。

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