仕事と介護の両立コラム 常時介護が必要な状態における「要介護2」は取得条件ではありません。判断基準です。
少し前に某新聞の「特集ページ」で介護休業について広報していました。
広報は心からありがたい、と思っています。
ネットの時代とはいえ、仕事と介護の両立世代、つまり50~60代の方々にとっては新聞の影響力は大きいですからね。
当然ながら、ネット記事にもなっていましたが。
ことの発端は2017年1月1日施行の改正育児介護休業法
2017年1月1日に、改正育児介護休業法が施行になりました。
改正されたというか、やっとまともになった、と働く介護者の誰もが気づいたのではないのでしょうか。
細かく書くと混乱の元になるので控えますが、わかりやすく言えば、休業と働き方がごっちゃになっていた法律でした。
それでも、法改正に伴い「介護休業が使いやすくなる!」とメディアが動いたのまでは良かった。とても良かったです!
実際、介護休業は使いやすくなりました。特に、「取得できる日数の上限である93日を3分割してよい」となったのは、理になった法改正だと思っています。
「要介護2」って、誰にとってもわかりやすいのですが…
ただ、「使いやすくなった!」という広報では、残念ながら正しく必要としている人に情報が伝わらないでしょう。
誰も覚えてないと思うけど、常時介護が必要な状態の目安を解読すると、改正前は要介護3相当でした。今回の法改正に伴い、「常時介護が必要な状態」を要介護2に繰り下げになることと、「常時介護が必要な状態の判断基準」になることが明文化されたのです。
つまり、「常時介護が必要な状態の範囲が要介護2に繰り下げになった。だから、介護休業が使いやすくなった」と広報したことが、大きな間違いなのです。
「要介護2」は判断基準でしかない
そもそも介護休業等の申請において「常時介護が必要な状態」が要介護3相当、というのはほとんどの方が知らない情報でした。
法改正で、本文ではなく「育児・介護休業法のあらまし」の中に「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」として「要介護2」が明記されたことで現場は大混乱になり、かつその混乱は今なお続いています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355361.pdf
それゆえ、間違った報道がやまないのです。
でも、よく考えればわかるはずです。
育児介護休業法の中で介護休業等の対象とされている家族には、自身の子や孫が含まれます。
子や孫が要介護2以上であることは、きわめて稀ではないでしょうか。
なぜならば介護2というのは介護保険法の話であり、40歳以上の方がその認定を取得できるのです。
皆さんのお子さんやお孫さんが40歳以上というのは、そう多くないのではないでしょうか。
一般的ではないことを法律にすることはナンセンスです。
介護休業等の規程を見直してみてください
私はこの法改正の時から、声を大にして訴えてきました。「介護休業等の規程を絶対に間違える」と。
そして、この勘違いは従業員や人事担当者だけの問題ではなく、企業のコンプライアンス問題にも発展するかもしれません。
「誰も幸せにならない」という状態をなくすために、今一度、介護休業等の規定を見直してみてください。
悪いのは、キチンと読まない従業員
『介護休業等』の説明の資料に「要介護2」という文字があれば、多くの方は「介護休業や介護休暇の取得には、要介護認定が必要なんだな・・・」と誤解します。
しかし、要介護2はあくまでも判断基準にすぎません。
実際に、私は何人もの方々に「それは判断基準です」といい続けています。
中には「介護休業等の申請には、対象家族が要介護2以上であること」などと間違って表記している会社も珍しくありません。むしろ多いぐらいです。
もし貴社の就業規則等このような記載があったら、コンプライアンス違反ですのでお気を付けください。
2017年施行の法改正に携わった方々に、私は苦言を呈したことがあります。「絶対に企業や働く介護者が混乱する」と。
しかし、彼らからは「その場合、判断基準は要介護2だけではなく、他に12項目のチェック項目もありますから心配いりません」と言われてしまいました。
ぐうの音も出ません。
そうです、キチンと読まない従業員が悪いのです。
とはいえ、介護休業等の資料に「介護休業等の申請には、対象家族が要介護2以上であること」と書かれていたら、勘違いしない方が難しいと、私は思います。
コンプライアンスとしての「常時介護が必要な状態の判断基準」
では「仕事と介護の両立」の側面ではなく、角度を変えてコンプライアンスの面から見てみましょう。
コンプライアンスとは「法令を遵守しましょう」ということです。
ただ単に法令を守ればいいというわけではなく、法令を守るのは当然の話であり、法令を守るために会社が出来る事をしましょう、という事も含まれます。
つまり「誤解を与えるような表記はいかがなものか」という意味なのです。
もちろん、誤解を与えるような判断基準に課題があることは否めません。
一概に企業の勘違いで片づけられない側面があるのも事実です。
しかし、厚労省に苦言を呈しても規定が簡単に変わるわけではないでしょう。
現行の材料だけで、現場は法令を正しく運用しなくてはならないのです。
「常時介護が必要な状態の判断基準の取扱い」の示し方
よく読まない従業員を悪者にするわけにもいきませんし、企業がコンプライアンス違反覚悟で規定するわけにもいきません。
では、どうしたらいいのか。
当初からこの法改正に苦言を呈してきた私からのアドバイスを贈ります。
①常時介護が必要な状態の判断基準は公開しない
問合せがあったら、担当窓口が丁寧に説明をすればいいのです。
言い換えれば、従業員が困ったときに、就業規則などを読んで勘違いしないよう、あえて「要介護2」の判断基準を公開しないという方法です。
「会社の規則は法律を順守している」と思っている従業員も少なくないですからね。
むしろ、問合せがあるようなフローになっていると、介護に直面した従業員を会社もすぐに把握できるので一石二鳥どころか三鳥・四鳥になると思います。
②誤解をあたえないような提示の仕方を工夫する
文字に色を付けたり、「要介護認定の取得前でも利用できます」と明記したり、「要介護2」という文字を小さくしたり工夫はいろいろできますね。
あえて不明瞭に書くと、従業員のほうから問い合わせしてくるでしょう。
不親切に見えますが、従業員に誤解を与えないために大切な方法です。
その代わり、窓口となる方は、介護休業等に関する正しい知識を身につけておいてもらう必要があります。
今回のコラムを最初から読んでいただいていれば、どこが勘違いにつながるかはわかっていただいていると思いますが。
仕事と介護の両立・無料研修
育児介護休業法の正しい知識および介護保険の基本的な正しい知識は、従業員を抱える以上絶対に必要です。
この4月にも、中小企業も含めた全企業で改正育児介護休業法が施行されます。
この機会に、コンプライアンスの問題として全従業員に正しい介護休業等の条件や知識を周知する場を作ってみてはいかがでしょうか。
従業員にとっても企業にとっても、仕事と介護の両立研修を実現するために周知することが望ましいです。
人事担当者として説明機会の多い皆さまにおかれましては、毎月行っております無料研修にて、介護休業等の説明の仕方をレクチャーしております。
ご都合のいい時にぜひご参加下さい。ご参加を心よりお待ちしております。
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