仕事と介護の両立コラム 改正育児・介護休業法を活用しよう|「義務化」を上手に利用して働きやすい職場を作る
この度の改正育児・介護休業法における、介護休業制度等の周知の義務化」は介護離職防止になるのかと気になっている人もいるでしょう。
コンプライアンスの一環だとしても、ダイバーシティ経営の取り組みの一環だとしても、義務化というのは「仕組み」を作りましょう、ということに他なりません。
仕組み作りの効果について解説します。
仕事と介護の両立促進を阻んだ解釈の違い
2024年に育児・介護休業法が改正される背景には、今までの仕事と介護の両立に対する解釈の違いがあると思います。その詳細を見てみましょう。
D&Iと仕事と介護の両立の過去
2016年に「介護離職ゼロ」が国策となってから今に至るまで、仕事と介護の両立や両立支援は「ダイバーシティ経営」にカテゴライズされていたような感覚があります。従業員の多様性の中に「介護に直面している従業員」がある、というイメージです。
仕事と介護を両立しながら働くということ、その状態・特性を知り、その上で能力開発とインクルージョンによるイノベーションを起こすことに、矛先を向けていた気がします。大変重要な取組みである一方で、「介護に直面していることを会社に報告してもらえない」「介護に直面している従業員が少なくて、インクルージョンまで取組みが進まない」という声も少なくありません。
また、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の流れから仕事と介護の両立支援に取り組む風潮は「うちの会社には介護をしている人はいないから関係ない」「うちの会社は若いから、これはまだ先の課題でいい」という状況から、経営判断により先送りされがちでした。
その結果、「突然はじまる介護」に対応できない状況に陥ってしまったのです。
法律改正に踏み切らざるを得なくなった結果
令和4年の就業構造基本調査によると、家族の介護や看護で前職を離職した人の数、いわゆる介護離職者の数は2021年10月以降10万6,200人となってしまいました。
この結果を受けて、政府は法律という強制力をもって企業が仕事と介護の両立支援に取組ませざるを得ない状況を作ることにしたのだと思います。
それが、今回の2024年育児・介護休業法の改正です。
なお、福利厚生の一環として仕事と介護の両立支援に取り組む企業もあります。従業員のエンゲージメント向上に寄与することは、結果として仕事と介護の両立支援の本来の目的に寄与します。しかし、福利厚生の存在を周知しなければ、従業員にとっては知る由もありません。
そのため、仕事と介護の両立支援を福利厚生として取組むこともまた「突然はじまる介護」には対応しづらい側面を持っていると考えます。
根本的な解決にはならないのです。
2024年育児・介護休業法改正
『仕事と介護の両立支援制度を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、仕事と介護の両立支援制度の個別周知と意向確認により効果的な周知が図られるとともに、両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備を行うことが必要である。』という政府の方針により、介護離職防止のための個別の周知・意向確認、 雇用環境整備等の措置が事業主の義務になります。
具体的には、以下のとおりです。
●介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
●介護に直面する前の早い段階(40 歳等 )での両立支援制度等に関する情報提供
●仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
(研修、相談窓口設置等のいずれかを選択して措置)
●要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務
●介護休暇について、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止
なお、施行は2025年4月1日からです。
特に最初の3つは事業主による義務です。
周知や情報提供においては「何を」「どんな手段をもって」という細かい内容まで省令によって決まる予定です。介護に直面している従業員がいる、居ないにかかわらず取り組みをしなくてはいけない、ということになります。
この度の法改正の趣旨を都合よく解釈する
今回の法改正の趣旨をわかりやすく解釈するのであれば、『介護休業や介護両立支援制度、できれば介護保険までを社会人の常識にしましょう』ということです。
社会人の常識にするために『周知徹底してください』『情報提供してください』を事業主に課し、周知徹底して「知らなかった!」をなくすことになります。
気の遠くなるような作業に思えるかもしれませんが、社会人の常識として定着させることが大事であるため、一昼夜ではできません。
日本全体として法律に則った最低限の周知活動を行うことで、「社会人の常識」への一歩が始まるのです。
この度は法改正の素晴らしいところはこれです。「始めの一歩」である点だと思います。
周知という行動を法律という強制力を持って規定していることなのです。
何を・いつ・どのように行うのか、を義務づけているため、企業においては法令を遵守するための仕組み作りが必要になります。
これこそが第一歩と言っても過言ではないでしょう。
仕組み作りは「周知という行動」を規定しているため、今回は「介護休業等」というコンテンツの周知に使います。しかし、コンテンツが変わっても仕組みは持続可能です。この度の法改正で「どうせやらならくてはならい仕組み作り」は、ありとあらゆることに活用・応用できるのです。
周知を義務化するという事の意義
この度の法改正は、もう一つ素晴らしい副作用をもたらすと期待しています。それは、職場に「対話」や「会話」の機会をもたらす点です。
その理由を語る前に、大前提として周知について知っておく必要があるでしょう。周知は、「個別周知」と「合同周知」と大きく2つの手段に分けられます。
個別周知
個別周知の手段で最も効果が高いのが面談による対話です。その他、書面やメールなどの媒体を介した周知手段もあります。
「知らなかったを無くす」という目的から考えると、個別周知の手段は面談による対話が望ましいことが分かるでしょう。そして、対話という機会は従業員のパフォーマンスやエンゲージメントにポジティブな影響を与えるという調査結果もあり(パーソル総合研究所 データから見る対話の「効果」とは より)、個別周知の手段としては最適であることが明白ではないでしょうか。
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202406210001.html
合同周知
合同周知とは個別周知の逆で、集団に対してまとめて周知を行うことです。手段としては、研修やリーフレットの配布、イントラネットでの情報掲載です。周知の効果としては個別よりも劣ると考えられます。しかし、雇用環境整備としての目的であれば「研修」という手段は、参加者が同時に同じ内容を見聞きすることで、参加者同志に共通言語を使った「会話」を生みだすことができます。
会話は働きやすい職場づくりには欠かせない行動です。しかも会話は情報を流通させる効果があるため、研修に参加していない従業員にも情報の伝達がされる場合があります。
今回の法改正は、職場環境改善につながる
この度の法改正は法律という強制力を持って、職場に「対話」や「会話」の機会をもたらしていると考えることができます。
この度の法改正を機に、次の3つを会社の仕組みとして実施してみましょう。
●介護の申出をしてきた従業員への個別周知は出来れば面談が望ましいとしています。対話で離職を防止しましょう。
●40歳の従業員への情報周知は書面によるものでも可としていますが、学習機会として、研修実施の上、研修資料を書面による情報周知とすることをお勧めします。
●研修や相談窓口の設置等による雇用環境整備は上記の40歳の従業員への「研修実施」をもって、法対応はクリアできます。
上記の取り組みで「対話」と「会話」の機会を作り、介護離職防止だけではなく、働きやすい職場づくりに寄与することが期待できる、と考えています。
11月5日に開催されるシンポジウムのお知らせ
東京都主催「介護と仕事の両立推進シンポジウム」の基調講演を担当させていただくことになりました。「企業による仕事と介護の両立支援~介護離職を防止する仕組みづくり~」というテーマで、法改正に伴う具体的な仕組み作りをお伝えいたします。さらには、仕事と介護の両立支援に取り組む、大規模企業・中規模企業・小規模企業の3社が事例を共有してくださいます。また、フリーアナウンサーの駒村多恵さんとのトークショーもありますので、是非ご参加下さい。
なお、オンライン配信、かつ、当日参加できない方にはアーカイブ配信もあります。
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