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仕事と介護の両立コラム 介護離職防止と仕事と介護の両立支援|当事者意識について考える

2024.12.02


介護離職とは「家族の介護を事由に今まで勤めていた会社を退職し、家族の介護に専念すること」です。一方、仕事と介護の両立とは「介護をしながら働き続けること。労働者であれば労働の義務を極力全うしながら、必要に応じて介護に関わること」です。

介護離職防止対策の対象者

介護離職防止策の具体的な対象者は、「家族の介護」を理由に職を離れようと考えている人です。
言い換えれば、それは従業員全員となります。どういうことなのか、詳しく見てみましょう。

介護を理由に退職する人たちと会社の思惑

「介護離職を防止する」が意味するところは、「家族が介護に関わるべきではない、介護はプロに任せるべきだ」という、介護に対する向き合い方やそのノウハウを教示することではありません。
従業員が職を離れたら、会社としては労働力不足に拍車をかけることになってしまいます。
また、従業員としては経済的に不安定になるから、職を離れないように対策をとる必要があります。
つまり、職を離れる理由の一つとして「家族の介護」があるという考え方です。
職を離れる可能性のある人に対して施す対策であり、介護に直面している、直面していないは関係ないことが分かります。
職を離れる可能性のある人は誰なのかといえば、働いている人です。それは、企業で言えば全従業員のことです。

介護離職防止はキャリア支援の一環

全従業員が離職しないように、就業継続意思をもって、業務に向き合ってもらうための支援、つまりキャリア支援の一つとして介護離職防止対策があることをご理解いただきたいです。
仕事と介護の両立支援の対象者は介護に直面している従業員です。
彼らが必要に応じて介護に関わりながら仕事を続けられるように、彼らの「家庭環境」「職場環境」「心身の健康」の最適化に力を貸すことが仕事と介護の両立支援です。

2024年育児・介護休業法における介護離職防止対策

2024年育児・介護休業法が改正され、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化が図られます。
令和5年12月26日付 厚生労働省雇用環境均等分科会からの「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について(報告)」には、介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の周知の強化等において、新たな仕組みの必要性があることを以下のように報告しています。
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〇両立支援制度を利用しないまま介護離職に至ることを防止するために、仕事と介護の両立支援制度の周知や雇用環境の整備を行うことが適当である。
〇介護に直面した労働者が離職せずに仕事と介護の両立を実現することは、企業・労働者双方にとって重要であることから、労働者に対して情報を届けやすい主体である、個々の企業による情報提供を促していくことが適当である。
*****************
これらのことから、改正育児・介護休業法では個別周知や意向確認、早期の情報提供や雇用環境整備の義務が事業主に課せられました。
主な制度の施行は2025年4月1日です。

いつ来るかわからない介護

介護はいつ誰にどんな形で始まるかわかりません。老若男女問わず可能性があります。
同時に、天涯孤独な人以外は、いつ家族の介護に直面するかどうかわからないのです。
つまり、法改正の意図から考えると、本来であれば介護両立支援制度は労働者が全員知っておくべきことなのです。
従業員全員に対して取り組むキャリア支援の一環として、介護休業制度や介護両立支援制度の情報提供をすることが望ましいでしょう。

会社からの一方的な情報提供だけでいいのか

この度の法改正では「介護に直面する前の早い段階(40歳等)の両立支援制度等に関する情報提供」という事業主の義務があります。
しかし、40歳の時に1回の情報提供では、記憶に残るか定かではありません。
継続的な情報提供が必要だと思いますが、本人に当事者意識がなければ、情報は耳から耳へ通り抜けていくことでしょう。
渡したリーフレットもどこかに無くしてしまうこともあると思います。
では、当事者意識の無い従業員にとって、介護休業制度や介護両立支援制度の情報提供において、何が一番大事なのでしょうか。

会社に「使える制度」があることを周知させる重要性

最も大事なことは「介護に使える制度がある」「自分の会社にも制度がある」ということを知っていることです。
それを使いやすくする、または使おうと思ってもらうことは、本人の知識よりも職場のあり方の方が大きいでしょう。
それゆえ「雇用環境の整備」も事業主に課せられた命題です。
そして、この雇用環境整備をするときに、会社が頭を悩ませることが『当事者意識の欠如』なのです。

「当事者意識」は必要ですか?

私の母は認知症があります。母の介護に関わって20年超、認知症ケアに関わって約14年です。
認知症ケアやシングルケアラー、働く介護者としての「当事者意識」はあります。
要介護者がガンの場合のケアラー支援をしてこなかったわけではありませんが、叔母がガンになって、ガン患者の家族としての当事者意識が芽生えました。
つまり、当事者を疑似体験することは出来ても、それが当事者意識になるとは限らないのです。

周囲はピンと来てない

同僚に家族の介護が突然始まって、なんだかバタバタしていることは感じている。
ご家庭のことはよくわからないけど、しょっちゅう電話していたり、ちょくちょく休んだりしていて、仕事のフォローが多くなってきた。
それに対して、実際にやることは増えたけど、それは仕方がないことで、不満もなければ、むしろ何とも思わない。
部署でフォローするしかないし、それ以外の方法を考える余地もない。
そして、私たちは「明日は我が身」と思ってフォローしているわけではない。
このような周辺社員に対して、「突然の介護に備えよ」「当事者意識を持て」「明日は我が身だ」といわれても、ピンと来ない人にはピンと来ないです。そして、それは悪いことではありません。当事者意識を持て、といわれても、無理なものは無理です。他人は変えられないのです。

「周辺社員」としての「当事者意識」という考え方

DEI推進をするにあたり、多様性を知ることがまずは大事です。多様性とは例えば以下のようなことを知ることです
〇育児をしながら働くとはどういうことなのか
〇介護をしなら働くとはどういうことなのか
〇治療をしながら働くとはどういうことなのか
〇高齢者が働くとはどういうことなのか
〇障害のある方が働くとはどういうことなのか
〇LGBTQとは
〇PMSとは
〇外国の方から見える職場とは
〇新入社員から見える職場とは
いろいろあります。この「多様性を知る」ことの一つに「周辺社員から見みえる職場」もあるのではないでしょうか。
周辺社員もまた「当事者」である、ということです。
当事者意識を考える時に、コンテンツから「当事者」を見るのではなく、「当事者」からコンテンツを見える形にする、そういう発想が必要だと考えます。

仕事と介護の両立に当事者意識を持たせる方法

全員が共通している「当事者」は何かといえば、「貴社の従業員」という「当事者」が一つ考えられます。
従業員として全員がやっているだろうことは何でしょうか。代表的なものが、勤務管理や給与明細確認ではないでしょうか。
この勤務管理や給与明細確認の行為をすることで、会社が一方的に伝えたいコンテンツが「勝手に目に入る」そんな仕組みを作ってもらいたいです。
介護に直面する前から「介護」というワードを目に触れさせておく、という観点での取り組みになります。
私がおすすめしているのは、年次有給休暇の残日数の確認画面に、介護休暇の残日数も表示させることです。
興味関心が高まった時、または必要になった時に、年次有給休暇に併記されている介護休暇の文字は目に飛び込んでくると思います。
そして、そこから介護両立支援制度にたどり着くことができる、そんな仕組みを考えていただけるといいと思います。

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