仕事と介護の両立コラム 育児・介護休業の改正|それに伴う「事業主への措置義務」を考える
2024年5月に育児・介護休業法が改正されました。事業主においては介護離職防止のための個別の周知・意向確認、 雇用環境整備等の措置が義務になります。事業主への措置義務というと、事業主の負担が増えそうです。
今回の改正の内容は、どのようなものなのか。2025年4月の施行前に対策を考えておきましょう。
育児・介護休業法の改正ポイント~介護編~
2024年5月末に決定した、改正育児介護休業法の介護系においては5つの改正点があります。
(↓厚生労働省の育児介護休業法改正ポイント解説資料)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
①介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
②介護に直面する前の早い段階(40 歳等)での両立支援制度等に関する情報提供
③仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
④要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務
⑤介護休暇について、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止
なお、④については「努力義務」です。理由は仕事と介護の両立において、テレワークは必ずしも有効な手段ではないためです。仕事と介護の両立を目的としたテレワークにおける事業主の安全配慮義務や労働者の労務提供義務など、徹底した教育が徹底した教育が求められると考えています。
『仕事し「ながら」介護に係らないこと』。これが絶対的なルールなです。しかし、要介護者といつも近くにいるがゆえに関わりやすく、それゆえにテレワークのルールを忘れがちになります。その結果、場合によっては事件・事故を誘発する可能性があるため、「努力義務」に留めていると思われます。
⑤については、現在は入職6か月未満の従業員に対して、労使協定で介護休暇を申請ができないようにしている企業もあるのです。今回の改正で「その制限をなくしましょう」、というながれになりました。わかりやすくいえば、「雇用形態によっては入職1か月未満でも、介護休暇の申請ができる」ということです 。
この度の法改正の意図から対策を考える
この度の法改正の意図は何でしょうか。先述の①~③の3つの義務化から想像できる法改正の意図は、「介護休業や介護両立支援制度は社会人の常識にしましょう」という事だと考えています。「親や子ども、家族の介護に興味が有る無に関わらず、社会人として知っておかなければいけない知識としましょう」、ということです。
これは、育児介護休業法の2022年改正で始まった「妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置」に似て非なる改正だと思います。
後者(育児)は男性育休の取得促進・職場理解の促進で、前者(介護)はあくまでも「周知」が目的です。前者(介護)も制度利用妨げてはいけませんが、直接的な介護に勤しむための利用促進をするものではありません。育児休業等と介護休業等は、各制度の利用想定目的が異なります。そのため、「個別周知」の意図もまた異なると理解しています。
介護に直面した旨の申出をした労働者
改正育児・介護休業法には、「介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置」とあります。多くの方は「介護に直面しても会社には申出はしないよね」と感じているのではないでしょうか。
申出をするかしないかは、従業員が判断すればいいと思います。申出をすれば、意向確認をしてくれるので、制度が利用しやすくなります。つまりは働きやすくなるだけの話であって、申出をしてもらうことが法改正の意図ではないためです。
ただ、申出のきっかけを作ってあげることは重要なことではないでしょうか。
そのような状況を鑑みて、弊社では2025年4月施行前に従業員からの申出を待つ前に、申出のきっかけを作る仕組みを作ることを提案しています。
ヒアリングの体制を整える
みなさんの会社では、上長や人事部との面談の機会はありますか?近年は、キャリア面談や評価面談などを積極的に行っている企業が多いように思います。その面談の際に申し出のきっかけを作ってほしいのです。
『ご家族のことで、気になることや会社に報告しておきたいことはありますか』とヒアリングしてください。この質問だけだと、回答に困る方もいるので選択式にしていただき、以下の内容のヒアリングをしてください。
●出産(不妊治療含む)
●育児
●家人の介護
●家人の病気
●家人の障害
●家人の転勤
●その他
それぞれの質問は、回答しやすくする工夫があるといいでしょう。各々の事項に関して、「気になる」との回答があったら、それは申出前段階と捉えてください。次に何を説明するのか、何を渡すのか、そんな仕組みを作っておくと、情報周知がスムーズになります。
隠れ介護者を出さないための体制づくり
情報周知は介護だけに限ったことではないし、目の前の状況が介護だと気づいていないで隠れ介護者になっている従業員もいるかもしれません。なので、先のような選択肢付きでヒアリングすることをおすすめしています。
そして、特にないようであれば、次の面談までに気になることが発生するかもしれないので、その時には、早めにお知らせください、とお伝えすることも大事です。つまり、申出は本人の意思だが、安心して申出をしてください、という態度を示すことが大事なのです。
介護に直面した旨の申出を見逃していませんか?
「介護に直面した旨の申出=家族の介護がはじまりました」という形だけ ではないことを理解してください。
介護休業や介護休暇・介護事由による、短時間勤務の申請や残業免除など、制度利用の申出は、「わたしは、家族の介護に直面しています」と言っているのと同じです。弊社では、以前から、介護休業の申請があったら、必ず面談をするようにおすすめしていましたが、今後はそれが義務化になるということです。
今までは、制度利用の申出があったら、事務処理だけで済ませていたかもしれません。しかし、今後はそうはいきません。従って、従業員からの制度利用の申出がシステム上なのか、上司なのか、さまざまだと思います。申出情報をキャッチしたら、即座に面談の機会設定という仕組みをいまの内から作っておきます。そして、面談をする人が、正しく周知できるように、いまから教育しておくことも大事な準備です。
今年40歳以上の従業員への対策はどうしますか?
2025年4月以降は、従業員の興味の有無に関わらず、40歳になった時点で情報周知がされるようになります。本人の記憶に残る残らないは別として、会社としては社会人の常識にすべく、対策は取らざるを得ないのです。
今回の改正趣旨は「社会人の常識にしましょう」ということだと考えましょう。そして、いま40歳以上の方は本人がアンテナを高くして自分で情報収集しない限り、必要な情報に触れる機会がないかもしれません。そんな時に限って「介護は突然始まります」です。
今回の法改正をきっかけに、現在40歳以上の従業員に対する情報周知も考えておくべきではないかと思います。
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