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仕事と介護の両立コラム 「知らなかった」ではすまない、働く介護者のリアル|知っておくべきセーフティーネット

2025.05.30


母が病気になった当初、私は「コクホ」が分かりませんでした。「コクホ」が示すものが、病気の名前なのか症状のことなのか、はたまた聞き間違えなのか…。
病院に相談室という場所があることさえ知らない私は、「コクホ」という言葉を発している、目の前の優しい人が誰なのかも実はわかっていなかったのです。

このように。「知らなかった」が引き起こすその後のドタバタから、基礎知識の必要性を解いていきます。

「コクホ」は国民健康保険

皆さんは、社会保険をご存知ですか?
お恥ずかしながら、私は母が病気になった32歳当初、「社会保険」という保険があると思っていました。
私が33歳の時に、母が入院したのですが、病院に「相談室」があることさえ知りませんでした。
入院手続きで病院のロビーをうろうろしていた時に、エプロン姿の女性が声をかけてきました。「困ったことがあるなら、話を聞きますよ」と。
今思えば、その方は病院の相談員だったのですが、当時は「優しいボランティアさん」と思っていました。

「コクホ」と「社会保険」は違うものだった

我が家は裕福な家庭ではないので『入院=お金がかかる』という想いで、お金をどうしたらいいのか、という相談をした記憶があります。
そんな話をしているなか、相談員は私に「お母さんはコクホよね?」と言ってきたのです。
「コクホ」が分からない私は、その相談員が言っていることが終始わかりませんでした。

その時間はとにかく必死だったので、ひたすら相談員の言葉をメモして帰宅。インターネットで「こくほ」と検索して、それが国民健康保険だと理解しました。

位置づけがわかり、次のアクションを知れた

次に、国民健康保険が何かが分からないのです。もっと言えば「保険」が良くわかっていませんでした。
当時、私は会社勤めをしていたので、会社の健康保険組合に加入していました。
ですので、『組合の保険と、コクホの保険と、民間の生命保険の違い』をインターネットで検索して勉強しました。
そして、やっと国民健康保険の位置づけを理解できたのです。

位置づけだけで、意味はよくわかっていませんでしたが、つまりは「国民健康保険に加入しているから、国民健康保険のパンフレットで学べばよい」ということは理解しました。
これだけでも次に何をすればいいか分かったので、私にとっては大きな進歩です。

「チーキホーカツ」は地域包括支援センター

母が70歳で再入院していた時、相談員から「地元のサービスを使った方がいいのでは」といわれました。

当初、私は「あぁ、病院から見放されたんだ・・」と感じました。
ヤサグレ気味に「じゃーどうしたらいいのですか?」と聞くと「チーキホーカツに行くと良い」と聞こえました。

「チーキホーカツ?って何ですか?」と聞いたら「市役所に連絡してみてください」と言われる始末。
『あ、このひと、私のことメンドクサイって思ったな』と感じ、その相談員との会話を終えました。

そして、私は「コクホ」の時の『知識がないと会話すらできない』を思い出し、自宅に戻って「チーキホーカツ」を検索。
結果、「地域包括支援センター」というワードに出会えました。

知らない、わからないは時間を消耗させる

このように、「知らない」「わからない」私たちの時間を使います。これが働く介護者の大敵のひとつなのです。
「知らない」「わからない」が私たちの時間的なペースを乱します。時間的なペースが乱されると、精神的にも不安定になりやすいです。

だからと言って「全部を知っておく」ことは不可能に近いです。では、どうしたらいいのでしょうか。

実は学校で学ぶことになっているが…

介護離職防止並びに仕事と介護の両立において、最低限知っておくべき、持っておくべき知識は社会保険制度と介護両立支援制度です。
介護保険制度だけでは仕事と介護の両立は出来ません。社会保険制度全体を知っておく必要があります。

とはいえ、社会保険制度そのものを全部理解するには専門的な知識が必要です。理解にも時間がかかるし、そもそも誰も教えてくれません。

社会保険については、社会人として、給与明細を読み解く力ぐらいは欲しいものです。
令和4年4月から高等学校の新学習指導要領には、公民科の新科目「公共」において、「少子高齢社会における社会保障の充実・安定化」を取り扱う旨が記載されています。

つまり、みなさんのお子様の方が知識を持っている可能性があります。「知らなかった」では大人として恥ずかしいです。
だからこそ、大人は主体的に情報を取りに行ってほしいのです。

ネットではなく人を頼れ

ここまで言っても、先延ばしします。
では、以下の5つだけ覚えておいてください。

1)入院したらすぐに病院の相談室にいって、医療保険(健康保険)で使える制度を教えてもらってください。つまり健康保険については病院の相談室を頼りましょう
2)子どもの障がいについては、社会保険のほかに使える手当がありますので、市役所の障がい福祉系の窓口を頼りましょう
3)認知症や親の高齢が心配な場合は、地域包括支援センターに行って介護保険で使える制度を教えてもらってください。
4)親の年金のことや障害年金のことについては、市役所の年金の窓口を頼りましょう
5)「わからないことが分からない」場合は、介護経験者を頼りましょう

つまり、人を頼るのです。それも「専門家」です。
インターネットには間違った情報もたくさんありますので、まずは専門家を頼ってください。

悩むだけ時間の無駄です。インターネットで分からないことを調べても、何が正しい情報なのかわかりません。
専門家から知識を得たうえで、それを深堀したり、何か比較検討したりしたいのであれば、インターネットを使うと便利です。

制度の詳細は厚生労働省が公開している

次に、育児・介護休業法の各種制度ですが、厚生労働省から出ている「育児介護休業法のあらまし」で勉強するのが一番いいです。

文字が多い冊子であり、専門用語も多いため、ひとりですべて理解するのは至難の業です。
理解促進のために会社で研修などを実施しているようであれば、積極的に参加し理解を深めましょう。

自分で勉強するのはちょっと…というのであれば、会社の人事総務部など、勤務管理の担当部署または就業規則の担当部署を頼って教えてもらうように働きかけてください。

介護両立支援制度の落とし穴

企業によっては、育児・介護休業法に基づく各種制度に加え、それを拡充したり、独自の制度を設けていたりする場合があります。

例えば介護休業を93日かあら365日に拡充したり、失効した年次有給休暇を積み立てて介護事由に利用できたり、といったような制度です。

失効した年次有給休暇の積み立てはいわゆる「積立有給」と言われますが、これは育児・介護休業法ではなく会社が独自に作った制度です。
また介護休業94日目から365日目においても会社の独自の制度です。会社独自の制度においては、運用も独自に決めることができます。
「積立有給の場合は時間単位での利用は出来ないかわりに、1日単位での利用のみ」とした運用ルールは問題ありません。

企業は責任の所在をはっきりすることが重要

どこまでが法定内で、どこからが会社独自の制度なのかをしっかり理解して運用しないと、従業員に不利益になることがあります。

例えば、以下のように法定休暇に加えて、積立有給の制度を設けた企業があったとします。

(そもそも、このように並べて比較するべき制度ではありませんが、混乱をわかりやすくするためにこのように表現しています)

この制度の意味や位置づけを理解できていない場合
人事担当者や管理職が介護休暇と積立有給と混同して「当社では介護休暇は1日単位での取得のみ」と部下に伝えてしまうことがあります。これは法令違反です。

しかし、人事担当者も管理職も、制度利用しようと思った働く介護者も、何が法定制度で何が会社独自の制度なのかを知らないので「当社ではそうなんだ・・・」と受け止めてしまうことがあるのです。

間違っていることに誰も気づかない、ということです。

実は、こういった事象が地味に起きています。
不利益だと思わないのであれば、それもよし。
不利益だと思うのであれば、正しい情報源を知り、自分自身で理解する努力をすることが大事です。

「知らなかった」ではすまないのが当事者の役割なのです。

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