仕事と介護の両立コラム 40歳からの介護保険|保険制度のことを知っていますか?
「私の介護保険で、親の介護はできますか?」という質問を毎年必ず受けます。介護保険とは、公的保険制度のことであり、民間の保険会社が取り扱っている保険商品ではありません。つまり、質問者はなにかしら勘違いをしているのです。ちょっと社会保障に詳しい人なら、笑ってしまうことでしょう。
ただ、私は決して笑えません。なぜなら私自身も、母を初めて入院させた時に似たようなことがあったからです。
入院先の病院の相談員の方にいろいろ話を聞いてもらっていた時に「お母さんはコクホですか?」と言われました。しかし、当時の私は、相談員が何を言ってるかわからなかったので「お母さんは純子です」と答えたのです。
両者の共通点は「社会保険』を知らない、もっと言えば「保険』を理解していない、ということです。
社会保険がわからず苦労した過去
私は32歳の時、母の介護が始まったばかりで社会保険制度が分からず、とても苦労しました。
「社会保険という保険がある」と思っていたし、生命保険や医療保険・損害保険等の民間の保険との違いも分かっていませんでした。
もっといえば、保険と税金の違いもよく分からない、つまり社会の仕組みを全く知らなかったのです。
しかし、入退院を繰り返す母の事務手続きや役所手続きなどをしなくてはならないし、お金もありません。
「さぁ困った!」と思っていた時に声をかけてくださった方が、PSW=精神保健福祉士の資格をもった相談員だったのです。
聞いてもわからなかった制度の数々
優しく丁寧にお話をしてくださったことは感謝しているのですが、当時の私はその方が何を言っているのかさっぱりわからない。
保険と税金の違いもわからない、気づいてない・知らない状況。当然、質問もできません。
ですが、わからないなりに「ひらがな」で必死にメモを取った記憶があります。
その後、私はメモした「ひらがな」をインターネットで検索しました。
しかし、出てきたページの内容が正しいのかどうかもわからず、大変苦労したのを覚えています。
それでも、検索を繰り返していくうちに社会保険がいかなるものなのか、そもそも「保険」がどんな制度なのかという概要が分かってきた、という過去があります。
社会保険が分からないとどうなるのか
社会保険についてふわっとした意識で役所の窓口に行きました。すると、書類が出てきて「ここにサインして」と言われサインをする。そんなことを何度も繰り返している時期がありました。
自分から申し出ているにもかかわらず、何の書類にサインをしているのかもわかっていません。
書類を出してくる役所の方や病院の方は、私が「わからないことがわからない」状況であることは微塵にも思っていなかったでしょう。
なんなら、彼らは「わかっている」前提で私が求めたであろう書類を出してきたと思います。
だから、結果的に二度手間三度手間になりました。
わかってないから、使えたであろう制度を見逃すことになるのです。社会保険制度を知らないだけで、私は時間も気力も体力もお金も浪費されました。
こういう苦い経験があって、「他の人は知ってるのかな?知らない人のために情報発信したいな」という思いが芽生えたのも事実です。
5つの社会保険
社会保険とは、病気・怪我(けが)・災害・失業等によって生活に困った時に、保険を活用して生活の安定を図る社会的サービスです。医療保険(健康保険)、介護保険、年金保険、労災保険、雇用保険の総称であり、それぞれの内容は以下の通りです。
「保険」というだけあって、加入者でお金を出し合って助け合う制度です。また、社会保険は公的保険なので加入は義務です。
それぞれの保険に対して、加入義務者が決まっています。医療保険は国民皆保険といって、全国民に加入義務がありますが、介護保険は40歳以上の方が該当者です。当然ですが、保険料を払ってないと社会保険を使うことはできません。
そして社会保険制度には、「現金支給」と「現物支給」の2種類があります。現金支給とは、指定した銀行口座などに、直接お金が振り込まれることです。年金保険や労災保険がこれに該当します。
一方、現物支給とは、役務の提供を受けた時に発生する報酬の一部を自分で負担して残りの一部を保険で賄うものです。医療保険を例にすると、あなたが病院を受診した際に支払う3割負担が自己負担額で、残りの7割を健康保険組合から病院に支払う、という仕組みです。
40歳からの介護保険
介護保険は40歳になると納付義務が始まります。会社勤めの方は、健康保険組合が代行して徴収する仕組みを用いているため、給与天引きとなることがほとんどです。そのため、40歳の誕生日月からいきなり手取りが少なくなります。
介護保険のことがよくわかっていなかったり、給与明細をよく見ていなかったりすると「何事だ!」という事になるのです。
介護保険は、自身が病気になってしまったり、体の機能が思うように動かせなくなったりしたときに誰かから何かから生活支援を受ける場合、その費用に対して保険を使って生活の安定を図る仕組みです。
つまり、「介護保険を使う」という言葉の意味するところは、介護サービスを利用した際の報酬に対して一部を自己負担、残りを介護保険からサービス提供事業者に支払うことになります。通所介護や訪問介護といったサービスを活用することが、介護保険を使うことではありません。
『介護を受ける時に、公的な資金の補助などはありませんか?』という質問がたびたび寄せられますが、介護保険を使うこと自体が公的な資金の補助そのものなのです。
介護保険の4つの特徴
介護保険には、次のような4つの特徴があります。
1)40歳から保険料を納めているのに、自由に介護保険が使えない
40歳から64歳の第2号被保険者は16種類の特定疾病に該当していないと、生活支援を受けても、その費用に対して介護保険を使うことができません。
2)月に使える介護保険に上限がある
介護保険は生活支援等に対する費用補助に使います。基本的には自立を目的とした生活支援であるため、必要以上の生活支援には介護保険が使えません。従って申請してすぐに利用できるわけではなく、申請者の状況や1か月にどの程度の生活支援が必要かを審査し、最終的にいくら介護保険を使っても良い、という上限がきまるのです。ちなみに、審査の過程を介護認定といい、出てきた上限を介護区分=支給限度額と言います。
3)上限を決める手続きがある
要支援要介護認定の申請をすると、認定調査員が、介護保険の利用希望者の状態を調査に来ます。その調査結果と、主治医からの意見書を基に、審議会にかけられて、上限が決まります。
4)介護保険が使えるサービス提供事業者と契約する必要がある
介護保険の上限が決まっているため、介護サービスの単価も法律で決まっています。実際に介護をしてくれる事業者と介護保険を使うための契約を締結します。
社会保険制度の勉強をもっと手厚く
「中学校か高校で社会保険制度の授業を薄く聞いた記憶があるようなないような…」
多くの大人はこのような状態の人がほとんどかと思いますが、やはりこの社会システムについてはしっかり教育すべきだと思います。
過去の私のように、いざ使おうとしたときに本当に困るのです。わからないから、困るのです。税金や社会保険料などは給与天引きされている企業も多いため、新入社員研修の時に「給与明細の読み方」なんて言う、研修があってもいいと思います。
社会保険の言葉に触れる・意味を知る・仕組みを理解することは、年齢を重ねるごとに必要性と重要性を感じます。知ってるか知らないかだけで、気力体力お金時間というコストにも大きく影響するためです。
本国会で改正育児介護休業法が通過すると、2025年4月1日から40歳になる従業員への介護休業制度等の周知義務が始まる予定です。なぜ、40歳なのか?それは介護保険の第2号被保険者になるためです。介護休業制度等の説明義務が始まるのであれば、介護保険の学び直しも合わせて取り組んでいただきたいものです。
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