仕事と介護の両立コラム ダイバーシティ経営と仕事と介護の両立支援|声を聞き、声を出すことで企業価値を創ることの重要性

これまで多くの企業では、「仕事と介護の両立支援」はダイバーシティ推進の一環として取り組まれてきました。
多くの企業では、介護と仕事を両立する従業員を「支援すべきマイノリティ」として捉え、差別排除や制度整備に焦点を当ててきたためです。
しかし、それはダイバーシティ推進の出発点にすぎません。
本来、ダイバーシティ推進の目的は、ダイバーシティ経営の実現、つまり多様性を活かして価値を創造することにあるはずです。
今こそ、制度整備という「推進」の段階から、経営の中核として「活かす」ステージに進むべきときです。

ダイバーシティ推進とダイバーシティ経営の違い
ダイバーシティ推進とは、多様な人材が安心して働けるよう環境を整えることです。性別や年齢、国籍、ライフステージの違いを受け入れることを目的としています。
一方、ダイバーシティ経営は、その多様性を組織の力やイノベーションの源泉として活かす経営戦略です。「介護に直面している社員がいても働き続けられる環境を整える」ことが推進なら、「介護を経験した社員の共感力や課題解決力を組織の価値に変える」ことが経営です。
言い換えれば、ダイバーシティ推進は「多様性を受け入れる段階」、ダイバーシティ経営は「多様性を活かして価値を生み出す段階」となります。日本企業は今まさに、その転換点に立っているのです。

ダイバーシティ経営においては「介護=制約」ではなく「価値の源泉」
介護に関わっている従業員は、しばしば「働きづらい立場の人」と見られがちです。
しかし、介護に関わっている人は、誰よりも命に向き合い、人に寄り添い、そして優先順位を見極める力を持っています。
それは、どんな経営資源にも代えがたい「人間力」です。
この経験を組織の力に変えることこそ、ダイバーシティ経営の真価だと考えます。
介護を理由に人を守る経営から、介護を理由に人を活かす経営へ。その転換が、企業の成長を真のダイバーシティ経営へと移行させていくのです。

当事者の声を聞き、当事者が声を出す「双方向の価値創造」
介護に関わっている従業員の多くは、自らの状況を語ることをためらいます。
「迷惑をかけるのでは」「昇進に響くのでは」
そんな不安が沈黙を生んでいます。
沈黙の結果、何が起きているのか。それは「介護離職」です。
介護離職を防ぐためにも、企業は従業員の声を聞きに行くべきです。
従業員は、勇気をもって自分の声を出すべきです。
声を上げたとしても、その対応に戸惑う会社がほとんどでしょう。
とはいえ、介護に直面した旨の報告を受けたら、制度の説明や利用意向の確認は企業の義務となりました。
2024年の育児・介護休業法改正により、「介護」を介した対話の機会は法的にも増えつつあります。
この法改正を「コンプライアンスの一環」にとどめるのか、「新たな企業価値創造のきっかけ」と捉えるのかで、企業の未来は大きく変わるのです。
労使双方のコミュニケーションが、組織の心理的安全性を育み、制度を「仕組み」から「文化」へと変えていきます。声を交わすことこそが、仕事と介護の両立を価値創造へと変える第一歩です。

「介護をする人」こそが、企業の未来を支える人財になりうる3つのポイント
介護を通して得られる経験は、企業の競争力を支える要素になり得ます。具体的には次の3点等は企業競争力を高める視点になる可能性があります。
・顧客視点:生活者のリアルを理解し、人に寄り添う発想を育む
・マネジメント力:限られた時間で成果を出す効率と判断力が身につく
・共感と協働:人の痛みを理解し、チームの関係性を強化する
これらは、数字で測れない経営の無形資産です。
介護を経験する従業員を「守る対象」ではなく、「共に未来をつくるパートナー」として捉える企業が、真のダイバーシティ経営を体現していくのです。
それぞれ詳しく解説します。

顧客視点
私は企業様の新規事業部からたびたびヒアリングのお仕事をいただきます。新規事業のために介護に直面している人の意見が聞きたい、というものです。
このお仕事は内製化できれば、より費用対効果の高い仕事になるのではないでしょうか。当然ながら私へのお仕事は減るのですが、私は介護者の価値向上を図ってもらえるのであれば、満足です。
マネジメント力
とある中小企業の経営者はご自身が親御さんの介護に直面し、かつ子育てもあるなか仕事を滞らせてはならぬと、もがいた挙句、「脱属人化」を経営課題として強く促進することを決めたそうです。
介護だけではなく、育児やご自身の病気などで、会社を休むことは否めない。
しかし、仕事を止めることもできない。
限られた人数で業務を回していくには属人化はあってはならないと気づいたそうです。脱属人化は同時にタスクの見える化にもつながり、マネジメントもしやすくなると期待しているとおっしゃっていました。
共感と協働
仕事と介護の両立は、いうなれば綱渡りの生活です。綱となり、綱を支えてくれるチームが仕事と介護の両立を支えてくれています。
綱の様子も知らず、ただわたっていたら、綱はあっという間に切れてしまいます。綱を知り、より強くより太い綱にしながら、綱に対しても負担のかからないわたり方をする、そういう気配り目配り心配りを介護を通して育むことができるのです。
仕事と介護の両立という生活はある意味、マネジメント研修なのかもしれません。
エンゲージメントが企業価値を高める
介護に直面している従業員が、自分の経験が企業の価値に結びついていると感じたとき、そのエンゲージメントは飛躍的に高まります。
「自分は制約を抱えた社員」から、「価値を生み出す一員」になることで意識の変化が起きます。その結果、働く意欲と誇りを生み、企業文化を変えていくのです。
同時に企業も、「社員の人生経験を価値として活かす経営姿勢」によって社会的評価を高めることができます。
まさに、社員と企業がWIN-WINで成長する関係がここに生まれるのです。

介護は「生き方」であり、「経営資源」である
「仕事と介護の両立は文化創造」の作業なのです。
ゆえに仕事と介護の両立支援もまた文化創造そのものです。
介護をしている従業員の声に耳を傾け、その経験を企業価値へとつなげることこそが、ダイバーシティ経営の次の挑戦です。
介護はライフイベントではなく、ライフそのもの。
それに真摯に向き合う企業こそ、人を活かし、社会に新しい価値を生み出すのではないでしょうか。
まずは、介護に関わる従業員の「声」に耳を傾けてみませんか。
安心して語れる場をつくることが、価値創造への第一歩です。
その瞬間から、きっと貴社のダイバーシティ経営が動き出すでしょう。

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