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仕事と介護の両立コラム 介護者の不幸は選択肢が見えなくなること|仕事と介護の両立における選択の仕方

2024.06.26

2014年6月29日。生まれて初めて、大きな会場で介護者としてのスピーチをしました。その時から、今に至る10年。変わらず訴えていることがあります。
それは、「介護者の不幸は選択肢が見えなくなること」です。
それは、介護が始まって20年が経過した今でも、ずっと伝え続けていることです。選択肢を見失わないため、本記事をお役立てください。
「↓初めての登壇」

「わからないことが、わからない」感覚

私は母の介護にかかわって、20年を過ぎました。
同時に、「初めての介護」であることには変りません。明日は何が起きるかわからないのが現状です。
介護歴20年でも、「(あらたな)介護は突然やってくる」のです。

今年(2024年)になって、母は初めてコロナ罹患しました。その時、久々に「わからないことが、わからない」モードを体験しました。
コロナ罹患した母が、ショートステイから帰宅した後、どうしたらいいのかわからなかったのです。一歩も動けませんでした。

インフルエンザであれば、医療機関を受診してインフルエンザ治療薬を服用し、5日間ぐらい自宅謹慎、というのが経験値でわかります。
でも、コロナ罹患の場合はどうしたらいいのかわかりません。
「分類が5類になった」という知識はありますが、私は「5類」が何なのかよくわかっていませんでした。

インフルエンザのような治療薬があるのか無いのかも、私には知識はありません。
なので、病院に電話して「受診した方がいいですか?連れて行ってもいいのですか?」と問いました。すると、電話口の方から驚きの回答が返ってきたのです。
「病院にいらしていただいても、検査するかどうか、わからないし、処方もあるかどうかわかりませんが、それでも受診しますか?」
正直、病院のスタッフが何をいっているのかわかりませんでした。「何を言っているのかわからないのですが…?」のやり取りが続きましたが、そのやりとりも平行線。
しまいには「(私には)判断基準がないので、わかりません。受診する判断基準は何ですか?」と質問しました。すると「そういわれましても・・」という回答でした。
つまり、電話口の病院の方は、私が「何がわからないのか、わからない」のです。噛み合うはずはありません。
結果、私はどうしたかと言えば「多くをとる」という選択肢を選びました。つまり、とりあえず病院に行く。受診できるかどうかは、病院に行ってから考える、という選択です。

このように、介護歴20年の私にだって「わからないことが、わからない」ことはあります。しかし、時間かけずに行動できるのは、選択肢の選び方を経験値で知っているからです。

私の選択肢の選び方

選択肢を選ぶという行為は、欲しい結果を導くためのプロセスです。欲しい結果がある
。その結果を導くためのプロセスは何か。その選択肢を選ぶメリット・デメリットや費用対効果などを総合的に考えていきます。

私は選択肢の選び方で「気力・体力・お金・時間」=コストを意識しています。考えすぎると、気力が低下して動けなくなりますし、むやみに動くと、コストを消費するだけのこともあります。
コストを意識するためには、優先順位も必要です。
● 欲しい結果がドンピシャではなく、ニアリーイコールでもいいのか
● 時間がかかってもいいから、欲しい結果により近い方がいいのか
● 場当たり的でも、今をしのげれば、当面は問題なく、本質的な改善はその次でもいいのか など。
恐らく、人生のあらゆる局面で、みなさんも人生の選択をしてきているはずです。なので、同じように選択すればいいはずです。

しかし、そもそも「選択肢」が見えなければ選ぶこともできません。

選択肢はどこにある

「わからないことが、わからない」状態の時に選択肢を探す行為は、難儀の極みと言っていいでしょう。
「介護は家族がやるものだ」という考えがあれば、なおさらです。人生の選択肢を探すという概念さえないかもしれません。
だから、弊社では発信に力を入れています。特に「定義」と「心構え」が重要だと考えています。この2つを、介護者が選択肢を探す基準にしたり、選択の基準にしたりして欲しいからです。

定義とは

仕事と介護の両立という、国が対策をしている社会課題は労働課題です。人口減少が著しい中、労働力の維持のために家族の介護に直面しても、働き続けましょう、という政策です。
ここで言う「介護」は、労働者自身の身体や時間を対象家族のために費やす行為のことを言います。
労働者自身の身体や時間を介護に費やさないように、社会資源を積極的につかい、就業を継続しましょう、という意味です。
ご注意いただきたいのは「仕事と介護の両立は仕事に専念すべきだ」ということではないのです。「仕事に専念すべきだ」は価値観の押し付けであり、仕事と介護の両立の定義ではありません。
これは定義ですので、「私にとっての仕事と介護の両立の意味は違う!」という、個人の価値観に左右されるものではありません。
個人の価値観を否定するつもりはありませんが、仕事と介護の両立とはいかなることなのかを知ったうえで、個人の価値観をもって人生を選択して欲しいのです。

価値観とは

一方で、介護に向き合う心構えとか、仕事と介護の両立のための心構えというものは、これは価値観です。
弊社では「介護がはじまったら、介護者の人生を第一優先で考えましょう」と伝えています。加えて、仕事と介護の両立の心構えとして、「対象家族のADL(日常生活動作)の道具にならないようにしましょう」と伝えています。
前者の理由としては、介護者は誰からも何からも守ってもらえていません。
介護者を守る法律は、残念ながらありません。誰かの人生を守りたいのであれば、まずは自分の人生は自分で守ってください、というメッセージを込めています。
また後者においては、前者にも通じることですが、介護者がいないと、要介護者が生きていけない状態=介護者が機械(要介護者の生活のための道具)にならなくてはいけないことと同義です。
しかし、介護者も人間です。病気にもなるし、疲れも出るし、気分が乗らない時もあります。
その介護者の体調や気分に要介護者の生活が左右されてしまっては、要介護者の人権問題にもなりかねません。
なので「必ずしも、そうであるべきではないけど、こうした方がいいよ」という言い方で選択肢を示すようにしています。
「定義」と「心構え」の違いを理解すれば、選択肢を見失わずに済むでしょう。

介護者の選択肢を奪ってはいけない

「介護は家族が担うべきだ」「介護はプロに任せるべきだ」などという伝え方は、介護者の選択肢を狭めます。
「介護は家族が担うべきだ」という考え方は、間違っているとは思わないし、否定もしません。だからといって「介護はプロに任せるべきだ」という考え方も間違っているとは思わないのも事実です。
そもそも家族にしかできない「介護」もあります。それを考えれば「介護は家族が担うべきだ」は、正しいとも言えます。
つまりこの「介護」が示すものは何なのか、という事が介護者の人生の選択肢に大きな影響を与えていることがわかるでしょう。
介護やお世話・手助けとかお使いなど、家族にとって線引きは人ぞれぞれです。線引きは、価値観と言い換えることもできるかもしれません。
「●●べきだ」という言い方もまた、発信者の価値観です。ただし、強烈な価値観の押し付けは、介護者の選択肢を奪いかねません。
特に「わからないことが、わからない」介護者は、目の前に「べきだ」という価値観が現れたら、それを躊躇なく選択することがあります。
ある意味「考えることを放棄」しているようにも見えますが、そうではありません。
専門職やコンサルタントからの「べきだ」という価値観は考える余裕さえ奪うのです。発信者はそのことを肝に銘じておかなくてはいけないと思います。

仕事と介護の両立研修の意味

私にとっての仕事と介護の両立研修は、選択肢の提供です。もちろん、定義の紹介や社会人として必要な知識の教示も行います。
しかし、同時に「こういう考え方もあるのだな」と知っていただき、人生の選択肢を広く持っていただきたいという思いを込めて登壇しています。
仕事と介護の両立研修は、はっきり言えば誰がやっても、一定の満足度は取れます。
ほとんどの研修では、希望者のみが参加します。つまり、仕事と介護の両立に対する不安が強い人たちです。彼らの多くは「わからないことが、わからない」状態です。
その状態に対し、研修講師が制度について懇切丁寧に教えてくれれば、満足度は高くなります。
つまり、弊社のみならず、誰がやっても仕事と介護の両立研修は満足度の高い結果を作ることができるでしょう。

しかしながら、弊社の研修の目的は「満足」ではありません。
行動変容です。「気持ちが変われば、行動が変わる。行動が変われば、環境が変わる。」という信念で、行動変容を起こすために気持ちの変化を重視しています。
実際に、8割程度の方の気持ちに変化をもたらしてきました。これが弊社の技術です。

私自身が20年の介護者経験を持つこともベースにありますが、100冊以上の仕事・介護・高齢者などのキーワードの本を読み、識者や介護経験者から学びを得ています。
もちろん、継続学習をしながら、厚生労働省が出す資料なども熟読。
そして、延べ200媒体以上のインタビューに答え、延べ5000件程の介護者並びに経営者・人事部からの相談に対応しています。
だからこそ、「わからないことが、わからない」の視点を常にもっているのです。
そして「働く」と「介護」をキーワードにした登壇歴は10年を超えました。
500回以上の研修や講演会、延べ10,000人以上の聴講者の前に立ち、さまざまなご意見をいただいてきています。
伝え方や伝える順番、使う言葉は日々研究を重ねています。
そんな弊社の財産を伝授する講座ができました。「気持ちが変われば、行動が変わる。行動が変われば、環境が変わる。」講座を、実際に提供できるようになる講座です。
私一人で伝えることもできますが、やはり限界があります。だからこそ、ただ単に満足度が高い講座を提供するだけではなく、介護者に本当の意味で選択肢の教示ができる講師を育成したいと考えています。
仕事と介護の両立を、真の意味で支えるのは、興味を持ってくださったあなたです。

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