仕事と介護の両立コラム Carers be ambitious!|本当にケアラーのこと、見てますか?
介護者だって人間です。私たちにも健康で文化的な生活を営む権利があります。
少々ぐちっぽくなってしまうかもしれませんが、私はこの風潮を、考えを黙って見過ごすことはできません。
最近「介護者」であることが生きにくいです
「子どもをヤングケアラーにしてしまった」
「僕は仕事と介護の両立に失敗したから、介護離職をしてしまった」
このような言葉を使われる相談者が増えてきました。すごく危機感があります。
負のイメージが先行する「ケアラー」という言葉
まず前者ですが、ヤングケアラーとは未成年の介護者のことですが、ヤングケアラーにしてしまった」という言葉から推測すると、この相談者には「ヤングケアラー」にいいイメージがないようです。
どうしてこんな言葉が出てしまうのでしょう。それは社会がヤングケアラーを祀り上げすぎたのだと私は思います。
メディアにとりあげられれば、一般人からしたらある種「特別な存在」見えてしまいます。
その「特別な存在」としてしまうことが、かえってイジメの対象にしてしまうのではないか、可哀想な人達と偏見の目で見られたりするのではないかと考えてしまうのでしょう。非常によろしくありません。
介護離職に対する勘違い
かたや後者は、「介護離職してしまった自分はダメ人間」と思い込んでいます。
「介護離職ゼロ」は労働生産人口の減少が顕著な日本経済において、企業の労働力を確保するための政策です。
介護離職をしなければいい、介護離職をしたからダメ、というわけではありません。
もちろん、あとさき考えない介護離職は推奨しませんが、誰かの人生の選択を否定することはあってはならないのです。
ただし、あえていうのであれば、勤労は国民の義務です。
働く能力がある人は、働かなければなりません。「介護離職がダメ」なのではなく、「働けるのであれば働こう!」。これだけのことです。
しかし最近では、「働く介護者は経済損失だ」とまで言われています。だから、対策をとらねばならぬと。
言い方が悪すぎないかしら……。さすがの私も落ち込みます。介護者にだって心はあるのですよ。
介護者支援としての就労支援と仕事と介護の両立支援は違います
介護者支援としての就労支援は、就労の意思の有無を確認し、就労の意思のある介護者が仕事を続けるまたは仕事に就けるように支援することです。
さらに言えば、仕事と介護の両立支援は介護に直面した労働者が、仕事のパフォーマンスを落とさないようにする支援です。
支援者は仕事に集中できるように、家庭環境の整備や職場環境の整備、本人の健康管理に力を貸します。
介護者支援に対する企業の選択の難しさ
介護者支援には介護者の「いまは、介護に集中したい」という意向があれば、それを支援するという選択肢もあります。
ですが、仕事と介護の両立支援においては「労働の義務があることが前提」です。
したがって、「いまは、介護に集中したい」という労働者の気持ちを蔑ろにするわけではありませんが、「介護に集中」されすぎても困ります。
企業の思いと労働者のすれ違い
労働者は企業に所属していればいいわけではなく、そこで労務提供するから報酬を得られます。企業は労働者の労務提供があるから、経済活動ができるのです。
企業の側からしたら、経済活動における社会貢献と従業員の生活を支えるための企業活動を止めるわけにはいかないのです。
「企業の姿勢が冷たい」「心がない」ように思われますが、決してそうではありません。
仕事と介護の両立支援は、日本の労働力の問題なのです。仕事と介護の両立支援と介護者支援は対象が同じでも目的が異なるのです。
介護者を知ってください
介護者とは、家族や自分にとって大事な人の介護やお世話に無償で取り組む人のことをいいます。当然のことながら、昔からいる存在です。
ただ、フォーカスされてきていないだけです。「家族の介護を家族が担うのは当たり前」という暗黙の概念によって、その存在が蔑ろにされているのは、今も昔も変わりません。
無意識の思い込みによる介護者の立場のなさ
現在、日本には介護者を保護・支援する法律「介護者支援法」はありません。
日本人には「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」はあります。しかし、介護者は透明人間のような存在となってしまっていて、そこに市民権はないと言っても過言ではないでしょう。「家族の介護を家族が担うのは当たり前」という、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)で人生の選択肢に制限が出てしまっている現実があります。
現在は団体単位にとどまる介護者の人権問題
「介護者にも基本的人権を!」と声をあげたのが、一般社団法人日本ケアラー連盟による「介護者支援の推進に関する法律案(2015年)」です。基本理念として以下のように明記されています。
1 介護者及び被介護者が、個人としてその尊厳が重んぜられること。
2 介護者が社会の一員として日常生活を営み、学業、就業その他の活動を継続することが困難とならないように行われること。
3 介護者を社会全体で支えることにより、介護者の負担を軽減するように行われること。
しかし、これらはあくまでも一団体が作成した介護者支援法案の理念です。法制化され、介護者に市民権が与えられるのはいつになるのでしょうか…。
「介護離職ゼロ」は介護者にスポットライトが当たった初めての瞬間だった、はずなのに…
介護離職ゼロの主人公は、介護に直面している企業にお勤めの労働者、つまり介護者です。
「介護離職ゼロ」が掲げられた時、初めて介護者という存在にスポットライトが当たった瞬間でした。
しかし、これは「介護者支援」とはちがいます。生産年齢人口の減少に伴う労働力の確保の政策です。
「働き続けることは前提で、仕事と介護の両立をしながら、生産性の維持向上を図るためにはどうしたらいいのか」というキャリア支援です。
介護者支援でなくても、家族の介護をしている「ひと」に注目が集まることに期待を寄せました。やっと、見てもらえると・・。
介護離職ゼロは間違った解釈をされている
しかし、今もなお「ケアマネジャーに仕事と介護の両立支援を担当してもらおう」という動きがあるぐらい、介護離職ゼロを介護の問題と捉えられている節があります。
介護の問題としてしまうと、主人公は要介護者にすり替わってしまうのです。
ケアマネジャーによる支援が無駄とは言いません。もっとも重要なのは、「ケアマネジャーが仕事と介護の両立の本来の意味をしっかり理解しているか」です。
介護離職せずに、仕事と介護の両立をすることは、ご家庭の介護環境が整えばいい、という事ではないのです。
介護者自身の健康のこと、職場の環境整備、そしてご家庭の介護環境整備、この3つの環境の適正化を図りながら、職業生活を続けている状態が、仕事と介護の両立です。
要介護者の支援ではないのです。
それゆえ、ケアマネジャーには仕事と介護の両立の協力はしてもらうものの、その支援を負担させるのは、個人的には違うと考えています。
介護離職は選択肢の一つであり、悪いことではない
「介護離職ゼロ」の主人公は介護者であるにも関わらずそれが浸透しないのは、介護者という存在がまだまだ理解されていない現実が根底にあるのではないかと私は考えています。
それゆえ、介護離職=なぜ辞めるの?辞めたら介護費用どうするの?ふつうは辞められないのでは?と、憶測ばかりがはびこってしまうのです。
いいじゃないですか。人生の選択肢のひとつに「介護離職」があったって。
介護離職しないで不健康な生活を送るのであれば、離職・転職して健康的な生活を送る方が絶対に良いです。
介護離職という事象を見るのではなく、その言葉を背負うのは人です。人を見ましょう。
介護者本位の介護者支援
介護者はちょっと自分の時間を作ったり、ちょっと自分にとって都合のいい状況を作ったりしただけで「介護されている人があまりにも可哀想ではありませんか?」と言われ続けてきました。「可哀想」と言われてしまうと、罪悪感が増します。介護者にとっては酷な言葉です。
私たち介護者支援団体は「お父さん・お母さんのために、自分の意思を殺しているあなた自身を可哀想だと思いませんか?私たちは、お父さん・お母さんと同じように、あなたも可哀想だと思います。」と、介護者も同じ土俵に上げます。これが、介護者本位です。
介護=自己犠牲ではない現実を知る
仕事と介護の両立研修を実施すると「介護には自己犠牲はつきものだと思っていたのですが、そうじゃない考え方もあると知り、心が軽くなりました」という言葉は何度もいただいています。
それほど、介護者本位の考え方に触れる機会は少なく、要介護者本位や自己犠牲が当たり前というアンコンシャスバイアスが介護者を生きにくくしているのです。
こう考えると、仕事と介護の両立支援も介護者支援と同じだと思われがちです。
しかし、必ずしも介護者の全員が「仕事がしたい」と思っているわけではありません。むしろ介護期だからこそ、介護に勤しみたいと願う介護者もいます。
最後は介護者本人の意思で
結果的に、介護離職を選択する介護者もいます。それは、介護者が自分の人生を考えたうえで出した結論ですから、否定されるべきものではありません。
その結論に至るまでに、求められれば仕事と介護の両立支援としての支援もするし、介護離職した後の一般的な介護者の情報もお伝えします。
しかし、答えを誘導することはしません。本人の出した結論に寄り添う。これが介護者支援です。
とにかく生きにくい!
介護者はどこにでも存在しています。介護者の存在をなき者にしないでください。
勝手なイメージや間違った情報で私たちの人生を奪わないでください。
介護者も一人の人間としての人生があります。介護に関わりたい人もいれば、関わりたくない人もいます。
介護に関わることと仕事をすることは別なのです。仕事か、介護か、家庭か、自分かとか、そういうことではないのです。
介護の話はともすると暗くなりがち、ってただの偏見です。介護者にとっての介護はただの生活です。私たちの生活を勝手に暗いもの、どんよりしているもの、って決めつけないでください。
介護者も声をあげよ!
言いにくい?何が?その思い込みが自分を生きにくくしているだけではないでしょうか。
もちろん、無理にオープンにする必要もなければ家庭の事情をペラペラと公表しろと言っている訳でもありません。こそこそするのは辞めませんか。堂々と生きましょう。
自分の命や人生を大事にすることが、何よりの家族孝行です。
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