仕事と介護の両立コラム 担当者でも間違えやすい「育児・介護休業法」をわかりやすく
多くの会社においては新年度になり、異動されてきた人事部・ダイバーシティ推進担当者も多いと思います。
また、人事部・ダイバーシティ推進担当者におかれましては新社会人向けの研修などにご登壇される方も多いのではないでしょうか。
そこで、今日は育児・介護休業法の介護休業制度について、間違えやすいポイントをお伝えいたします。
育児・介護休業法とはそもそも何か
「育児・介護休業法」は、正式名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。
目的と基本的理念を以下に転記します。
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(目的)
第一条 この法律は、育児休業及び介護休業に関する制度並びに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を設けるとともに、子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか、子の養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずること等により、子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする。
(基本的理念)
第三条 この法律の規定による子の養育又は家族の介護を行う労働者等の福祉の増進は、これらの者がそれぞれ職業生活の全期間を通じてその能力を有効に発揮して充実した職業生活を営むとともに、育児又は介護について家族の一員としての役割を円滑に果たすことができるようにすることをその本旨とする。
2 子の養育又は家族の介護を行うための休業をする労働者は、その休業後における就業を円滑に行うことができるよう必要な努力をするようにしなければならない。
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(引用:e-Gov 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)
つまり「働き続けること」が前提の法律です。「休むための法律」ではないことを理解しましょう。
そして、後述しますが、介護休業において、労働者からの申出により労働提供義務を一定期間消滅させる効果があります。労働者側から言えば、一定期間の労提供義務を免除してもらう効果のある制度だということです。
介護休業の対象となる労働者
介護休業の対象となる労働者 において「引き続き雇用された期間が1年以上」という条件が令和4年4月1日より撤廃されました。
介護休業の対象となる労働者は以下の通りです。
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○ この法律の「介護休業」をすることができるのは、要介護状態にある対象家族を介護する男女労働者です。
○ 日々雇い入れられる者は除かれます。
○ 期間を定めて雇用される者は、申出時点において、取得予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までの間に、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでない場合は、介護休業をすることができます。
○ 労使協定で定められた一定の労働者も介護休業をすることはできません。
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(引用:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし p59」)
つまり、労使協定を締結していない(一般的には、介護休業等の規定を整備していない)企業において、期間の定めのない労働者は入社1日目からでも条件さえ満たせば、介護休業の申請ができることになります。
介護休業における事業主の義務
介護休業における事業主の義務を確認します。
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○ 事業主は、要件を満たした労働者の介護休業の申出を拒むことはできません。
○ ただし、次のような労働者について介護休業をすることができないこととする労使協定があるときは、事業主は介護休業の申出を拒むことができ、拒まれた労働者は介護休業をすることができません。
① その事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
② その他介護休業をすることができないとすることについて合理的な理由があると認められる労働者
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(引用:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし p65」)
「介護休業の申出」とは、それにより一定期間労働者の労務提供義務を消滅させる効果のある意思表示です。労働者の側から言えば、労働提供義務を免除してください、という申出ということになります。
労働者には労働の義務があることを忘れてはいけません。だから育児・介護休業法は「休むための制度」ではなく「労働を免除してもらうための制度」なのです。
事業主としては、たとえ繁忙期に介護休業の申請があったとしても、それを拒否してはいけません。つまり、条件を満たせば、申請を許可しなければならないのです。
そして、労働提供義務を消滅させているわけですから、休業中の会社からの連絡も原則はできません。現場の管理職がついつい「繁忙期だから許可できない」などと言ってしまったら、法令違反になるということを認識していただきたいと思います。
ただし、労使協定を締結しておくことで、一部の労働者に対しては介護休業の申出を拒否することができます。
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〇その事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
〇その他介護休業をすることができないとすることについて合理的な理由があると認められる労働者
後者においてはさらに
1)申出の日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
2)1週間の所定労働日数が2日以下の労働
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(引用:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし p65」)
会社独自の規制を設けて、労使協定によりこれを拒否する場合は、法律で決まっている範囲より狭い条件に限っては問題ありません。しかし、法律で決まっている範囲以上の内容で労使協定を締結しても、それは無効となります。
就業規則や育児・介護休業法に基づく各規定は、従業員が10名以下の事業所において作成義務はありません。だからと言ってそこで働く労働者に育児・介護休業法の適用がないわけではないのです。
従って、従業員が1名でもいるのであれば労使協定の締結をしておいた方がいいと考えます。
介護休業の申出における対象家族の範囲とその状態
対象家族の範囲とその状態も法律で規定されています。
介護休業の対象となる労働者の規定において『この法律の「介護休業」をすることができるのは、要介護状態にある対象家族を介護する男女労働者です。』とあります。
対象家族の範囲は、パートナー(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含みます。)、父母及び子(これらの者に準ずる者として、祖父母、兄弟姉妹及び孫を含みます。)、パートナーの父母です。
また『要介護状態』という言葉には注意が必要です。要介護状態においては、育児・介護休業法の定義に以下のように定められています。
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(定義)
第二条 三 要介護状態 負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、厚生労働省令で定める期間にわたり常時介護を必要とする状態をいう。
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(引用:e-Gov 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)
この『厚生労働省令で定める期間』が、介護保険法と育児・介護休業法では異なります。
介護保険法では厚生労働省令で定める期間は6か月に対し、育児・介護休業法は2週間です。従って「要介護状態」という言葉は容易に使うべき言葉ではないことがわかります。
「この法律の「介護休業」をすることができるのは、要介護状態にある対象家族を介護する男女労働者です。」という表現は、言い換えると「この法律の「介護休業」をすることができるのは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護する男女労働者」です。
介護休業の申出
介護休業の申出についても規定されています。
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○ この法律の介護休業は、労働者の事業主に対する申出を要件としています。
○ 介護休業の申出は、一定の時期に一定の方法によって行わなければなりません。
○ 申出は、対象家族1人につき3回までであり、申し出ることのできる休業は連続したひとまとまりの期間の休業です。当該対象家族について、介護休業をした日数の合計が93日に達している場合は、その対象家族について介護休業をすることはできません。
○ 事業主は、介護休業申出がなされたときは、介護休業開始予定日及び介護休業終了予定日等を労働者に速やかに通知しなければなりません。
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(引用:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし p63」)
介護休業は書面による申出または事業主が認める方法での申出が必要です。事業主は、労働者に対して申出に係る対象家族が要介護状態にあること等を証明する書類(介護保険の要介護認定の結果通知書や医師の診断書)の提出を求めることができますが、提出を制度利用の条件とすることはできません。
その理由は、対象家族が40歳未満の場合は要介護認定の取得は不可能なうえ、対象家族が医師の診断を受けていない場合もあるためです。
どうしても会社として対象家族が2週間以上の常時介護が必要な状態にあることを証明した書類提出を求めるのであれば、厚労省の定める「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の12項目に対して、介護休業の申出を希望する労働者による判断結果を書面として求めることが望ましいでしょう。
さらに介護休業の申出は、一定期間に行う必要があります。具体的には、介護休業の開始予定日が介護休業の申出の翌日から起算して、2週間以上経過した日であれば問題ありません。要するに、介護休業開始予定日の2週間以上前に申出を行いましょう、ということです。
なぜ、2週間以上前に申出をするのか、ですが、それは2週間のうちに業務調整等を行ってください、というメッセージです。つまり「繁忙期だから介護休業は取らないで欲しい」ではなく、当該労働者が休業されては困る課題において2週間の間に解消または解決しておきましょう、ということです。
弊社でも、労働者から介護休業の申出があった時は必ず面談をするようにアドバイスさせていただいております。介護休業の利用目的や休業中にするべきことの準備や段取りの有無、業務の引継ぎ等の確認をするためにも、面談をおススメしております。
特に「地域包括支援センターには行ったのか」という声掛けは、介護休業の申出をした労働者の介護リテラシー確認にも最適なワードです。
なお、弊社では介護休業取得前の面談、復職前の面談などの同席も「介護相談・情報提供」ならびに「外部総合相談窓口」サービスの一環として承っております。
育児・介護休業法は法律です
介護休業の運用にあたり、間違えやすいポイントについて解説いたしました。
これらは法律ですので、間違った運用をすると法令違反となります。コンプライアンスの課題です。
これから新社会人をはじめ4月入社の新入社員等への各種研修が始まることでしょう。育児休業においては、令和4年4月1日より「雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化」が始まりました。
1)育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
2)育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
3)自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
4)自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
上記の4つの措置のどれか1つ以上の実施義務です。当然ながら、これも実施しなければコンプライアンス違反です。
ぜひ、1)の研修実施をおこなっていただき、その研修の際に介護休業等についても一緒に周知を図っていただけると、まさに一石二鳥の取り組みになるのではないでしょうか。
弊社にて「育児・介護休業法」の説明研修を承ります。ぜひ一度お問合せ下さい。
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