仕事と介護の両立コラム 仕事と介護の両立支援で増える「計画的介護離職」― 介護休業制度と人事の運用設計を考える

2016年、当時の首相であった故安倍晋三氏 が掲げた“介護離職ゼロ”。同年、育児・介護休業法 が改正され、介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回に分割して取得できるようになりました。
介護休業は3分割・通算で93日が、法定内制度です。
その後、「93日では足りないのではないか」という声を受け、一部の大企業では180日、あるいは365日へと独自に延長する制度が整備されました。社員を思う善意の制度設計であり、介護離職を防ぐための真摯な取り組みだったと言えるでしょう。
しかし制度設計から約10年が経ち、いま、見えてきた課題があります。それが、私が「計画的介護離職」と呼んでいる現象です。

93日という明確な線引き
介護休業制度には、はっきりとした境界があります。
対象家族1人につき3分割・通算93日までは法定内制度であり、雇用保険の介護休業給付の対象です。この部分に企業が独自の条件を付すことはできません。
通算94日目以降は、企業が任意で設けた法定外(上乗せ)制度です。ここには、運用上の条件を設定することが可能です。
たとえば、次のような運用設計は、法定外部分であれば設定できます。
・月1回の出社を求める
・同居家族に限定する
・定期的な状況報告を求める
しかし社員にとっては、93日も365日も同じ「介護休業」であり、同じもの。つまり、この二層構造が十分に共有されていないことが、制度運用の難しさを生んでいるのです。

制度が合理的判断を生む
ある企業では、介護休業を分割回数に制限はなく、通算で1年間取得可能としています。つまり、制度上は1年間連続した休業の取得が可能です。
この場合、93日の法定内制度を消化しているので、介護休業給付を活用したうえで、その後も休業を継続しやすい環境を作ることができてしまいます。結果、最終的に復職せず退職するケースが報告されています。また、対象家族が複数いる場合、制度上はそれぞれについて申請が可能となり、給付が重なる構造も成立してしまうのが現実です。
もちろん、違法ではありません。不正でもありません。制度上、成立する設計なのです。
企業はよかれと思って介護休業制度を延ばしました。しかし社員は、人生全体で合理的判断をします。
・長期化が見込まれる介護
・給付制度の存在
・復職後のキャリアの不透明さ
・家族状況の変化
その結果、「いったん区切る」という選択が生まれる。これが計画的介護離職です。
問題は個人のモラルではなく、制度設計にあるのです。

介護は終わりが見えない
ここで立ち返りたいのは「介護」の性質です。
育児には一定の節目があります。言い換えれば、先の目途が比較的、立てやすいです。
しかし介護は違います。
終わりが見えない。いつまで続くかわからない。不確実で長期化しやすい。
その特性を考えれば、1年間のまとまった休業が最適解とは限りません。
むしろ必要なのは、
・突発的な通院
・急な体調変化
・施設調整
・家族会議
に対応できる「継続的な柔軟性」です。
だからこそ、これから独自制度を設計する企業には「介護休業は長ければよいというものではない」と、明確にお伝えしたいのです。
理想は、介護休暇を5日から10日に拡充し、可能であれば有給化し、介護が続く限り毎年付与することです。
長期離脱ではなく、短期離脱(というより、ただの休み)を繰り返しながら介護との接点を持ち続ける設計。
そのほうが、キャリアの分断を防ぎ、結果として介護離職の抑制につながる可能性があります。

制度を戻すのではなく、運用を設計する
一度1年に延長した介護休業制度を93日に戻すことは、現実的には容易ではありません。であれば、問われるのは運用設計です。
介護休業通算94日目以降の法定外部分において、次のことを組み込むことは可能です。
・通算93日までは連続取得可能。法定休業終了後は1日でも良いので復職したうえでの介護休業取得
・94日目以降の休業取得前のキャリア面談
・休業中の定期的な接点設計
・復帰可否の早期確認・未就学の子どもの介護のみ
そして何より重要なのは、この二層構造を社員全体にわかりやすく説明することです。
・法定内制度と企業独自制度の違い。
・介護休業給付金との関係。
・復帰を前提とした制度意図の理解促進。
制度の透明化こそが、信頼を生み、独自制度に対するプレミアム感を醸成します。

介護離職ゼロの次に来るもの
2016年の“介護離職ゼロ”以降、一部の企業では制度が拡充されました。
しかし、多くの企業では「設計したが、それほど使われなかった」という期間が続いていました。
そしていま、制度周知や取得促進の流れの中で、10年前に設計した制度が本格的に使われ始めています。
その結果、見えてきたのが制度の“あら”です。
制度が悪いのではありません。制度は、使われて初めて検証されるのです。
一部の企業では、運用したうえで見えてきた制度の調整が始まっています。
そして、これから独自制度を設計する企業は、同じ遠回りをする必要はありません。
長く休める制度をつくることが最適解とは限らない。
介護という終わりの見えない特性に対しては、次の要素が求められていることを理解しましょう。
・働き続けられる設計
・短期離脱を前提とした制度
・仕事と介護の両立を維持する制度目的の理解促進
仕事と介護の両立支援は、休ませる制度で終わらせてよいのでしょうか。
それとも、つなぎ続ける設計へ進化させるのでしょうか。
貴社の介護休業制度は、どの思想に立っていますか。
介護休業制度の構造整理や運用設計の再構築について検討したい企業様は、ぜひ一度ご相談ください[幹久1.1]。
仕事と介護の両立支援は社風や業種・業態・拠点数や組織構成によって取り組み方や運用の工夫が必要です。
弊社はあらゆる業種業態の企業様のご支援をしてきた実績がございます。
貴社の業種業態働き方や社風をお聞かせください。いまの貴社にあった仕事と介護の両立支援対策と運用を一緒に考えさせていただきます。

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