仕事と介護の両立コラム 【改正育児・介護休業法】ミスリードにご注意ください!常時介護を必要とする状態に関する判断基準の見直し
改正育児・介護休業法の主なものは4月1日から施行開始です。介護休業制度等においては、事業主に周知義務や情報提供義務が課せられます。
そのなかで、「常時介護を必要とする状態」に関する判断基準が見直しになりました。
今回は、「常時介護を必要とする状態」に関する判断基準の見直しの内容を解説します。また、従業員への説明の際に気を付け得るべきポイントも紹介しています。誤った情報を伝えないためにも、参考にしてください。
育児・介護休業法の改正
2024年に育児・介護休業法が改正されました。その多くは今年(2025年)の4月1日から施行開始です。大きな改正された内容は、以下の2点です。
①男女とも仕事と育児・介護を両立できるよう、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
②介護離職防止のための雇用環境整備、個別周知・意向確認の義務化など
意向確認や意向聴取、制度周知と言う義務化は企業においては負担が増えるかもしれません。
しかし、従業員との対話の機会が増えるというのは、より多く、より深く従業員の声を拾えるチャンスです。
対話は離職防止にも効果があるといわれています。どうせやらなくてはいけないのであれば、せっかくの対話の機会を有効に使いたいものです。
次章から、より詳細な変更点や注意点を解説します。
簡易版を作る場合ミスリードに注意
事業主は、介護離職防止のための個別周知・意向確認のためや情報提供の際に、ミスリードに注意しなければなりません。
今回の改正で、介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認、介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供が義務となります。
ミスリードとは「誤解を招く」ということです。要するに、誤解を招くような周知・情報提供をしないようにしなければなりません。
ミスリードの例
就業規則における育児介護休業規定は正しく表記されています。社会保険労務士が就業規則を修正してくれている場合もあれば、厚生労働省のホームぺージにある規定文をそのまま使用しているので当然です。
しかし、就業規則とは別に、自社のイントラネットやハンドブック、簡易チラシ等で育児介護休業法の規定を簡易にまとめて掲示している会社の場合は注意が必要です。その表現がミスリードを誘っていることがあるためです。例えば以下のような文章があったとしましょう。
●提出書類:申請書、医師の診断書等
●要介護者の状態:要介護2以上
これをみてあなたはどう理解しましたか?
「医師の診断書を病院に請求しないといけないなぁ・・・医師の診断書ってすぐに発行してもらえるのかな」
「親の状況が要介護2以上かぁ・・・介護認定をとっていない場合は利用できないのかぁ」
と、解釈している従業員がいるのではないか、と言うことです。これこそがミスリードなのです。
ミスリードの原因と対策
先ほどの例ですが、なぜミスリードだといえるのでしょうか。原因は2つあります。
まず、介護休業制度や介護両立支援制度の申請において、対象家族の状態を証明するような添付資料の提出は不要です。
つまり、医師の診断書や要支援要介護認定の写しなどが無くても申請できます。
また、対象家族は介護保険が使える40歳以上である必要はないため、要支援・要介護認定の有無は関係ありません。
この2点が違うと気が付いた人はどの程度いるでしょうか。
基礎知識のない従業員は、この表記に対しミスリードであることを指摘することができません。育児・介護休業法の内容を知らないためです。さらに人事部や総務部、経営者が基礎知識を持っていないと、ミスリードに気づけないという無限ループになってしまいます。
従って、この度の育児介護休業法の改正に伴う周知義務をきっかけに、周知を行う人事部や総務部、管理職がまずは正しく学ぶことが重要なのです。
常時介護を必要とする状態に関する判断基準の見直し
この度、常時介護を必要とする状態に関する判断基準が見直されます。
変更ではなく、見直しです。見直しの主なポイントは「子どもの障がい」についての判断基準を具体的にしたことです。
介護休業制度等の介護両立支援制度を利用しようとした場合、その対象家族については範囲が法律で決まっています。
父母・祖父母・きょうだい・配偶者(事実婚を含む)・配偶者の父母・子ども・孫です。つまり、高齢者介護だけではなく、きょうだいやパートナーの介護、子どもや孫の介護にも、その対象家族が育児・介護休業法における常時介護が必要な状態であれば、各種制度利用ができるのです。
しかし、厚生労働省作成の「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」が、高齢者介護を基準に作成していた経緯があります。その結果、子に障害のある場合や医療的ケアを必要とする場合には解釈が難しいケースも考え得ることが問題視されました。その結果、この度の法改正と共に、見直しがされたのです。
「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の詳細はこちらからご確認下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_50086.html
常時介護に関する内容もミスリードの注意
なお、「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の見直しに関する研究会の報告書にある「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の冒頭には、間違いやすい2点を明文化しています。ミスリード防止の意図を感じますが、くれぐれも間違えないようにしてください。
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介護休業は、対象家族であって2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にあるもの(障害児・者や医療的ケア児・者を介護・支援する場合を含む。ただし、乳幼児の通常の成育過程において日常生活上必要な便宜を供与する必要がある場合は含まない。)を介護するための休業で、常時介護を必要とする状態については、以下の表を参照しつつ、判断することとなります。ただし、この基準に厳密に従うことにとらわれて労働者の介護休業の取得が制限されてしまわないように、介護をしている労働者の個々の事情にあわせて、なるべく労働者が仕事と介護を両立できるよう、事業主は柔軟に運用することが望まれます。
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子どもに障がいがある時の育児・介護休業法の使い方
子どもに障がいがある時の育児・介護休業法の使い方も要注意です。
それぞれの制度ごとに、使い方や注意点を解説します。
育児休業・介護休業
育児休業は1歳になるまでですが、諸条件で最大2歳まで延長可能です。
では、2歳以降はどうしたらよいのでしょうか。介護休業を使うことはできますが、1人に付き3回まで分割できて、かつ通算で93日までと日数制限があるため、絶対的に足りないことが多いのです。
子どもを預ける先としての社会資源が極めて少ない中、決められた日数や時間で何とかしなくてはいけません。
子の看護等休暇・介護休暇
子の看護等休暇は子どもが小学校3年生修了まで付与されます。子ども1人に付き年間5日、時間単位で取得可能です。中抜けの利用もできます。ただし、取得事由は以下の4つに限定されている点に注意しましょう。
①病気・けが
②予防接種・健康診断
③感染症に伴う学級閉鎖等
④入園(入学)式、卒園式
従って保育園入園前や小学校入学前の先生との面談等には、介護休暇を利用することになります。
介護休暇は対象家族1人に付き年間5日まで、時間単位で取得可能です。ただし、中抜けは規定されていません。使う必要がある場合は、始業時間を遅らせる、または終業時刻を早めて使うことになります。
所定外労働の制限・時間外労働の制限
育児のための所定外労働の制限、いわゆる残業免除はこの度の育児・介護休業法改正で対象が3歳未満の子から、小学校就学前の子まで拡大されました。ただし、介護による所定外労働の制限は対象家族が育児・介護休業法における要介護状態ではなくなるまで利用できます。
なお、時間外労働の制限もまた、対象家族が育児・介護休業法における要介護状態ではなくなるまで利用できます。
働き方の工夫
働き方の工夫として、育児のための短時間勤務制度は原則3歳までです。3歳から小学校就学前までの柔軟な働き方を実現するための措置として、事業主が下記の5つのうち、2つ以上を選択して採用することが義務づけられます。これは2025年10月1日より施行開始です。
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(10日以上/月)
③保育施設の設置運営等
④養育両立支援休暇の付与(10日以上/年)
⑤短時間勤務制度
子どもが小学校就学以降の働き方の工夫は、以下の介護のための事業主が講ずべき措置によります。事業主によって以下の4つの措置のうち、1つ以上を採用することが義務付けられています。
①短時間勤務
②フレックスタイム制度
③始業または終業時刻の繰上げまたは繰下げ(時差出勤制度)
④労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
しかし、①から③については連続する3年間以上の期間において、2回以上の利用ができるように規定されています。
そのため、子どもが小学校4年生以降の働き方の工夫には事業主の「協力」が必要になります。
育児なのか介護なのかで変わる期間
育児のための制度は、子どもの年齢で使える期間が決まっています。介護のための制度は対象家族の年齢ではなく、制度自体に期間があります。上記はあくまでも制度の利用例であり、どの制度をいつ使うかは従業員の判断です。
もちろん年次有給休暇を使うことも可能です。どのような形がふさわしいのかは、上長や人事担当者と3者で話し合って決めると良いでしょう。
従業員が間違った解釈をしないために、幹部が正しい知識を
育児・介護休業法による各制度は、働き続けることが前提の制度です。育児や介護に専念するための制度ではありません。
育児や介護において、課題解決のために時間が必要な従業員に対し、勤続年数に影響なく休みや働き方ができるように法律によって用意したに過ぎないのです。
育児・介護休業法は法律です。間違えればコンプライアンスの問題にもなりかねません。
正しく理解して、正しく周知、情報提供していきましょう。そのためには、経営幹部が率先して正しい知識を身に着けることが重要です。
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