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仕事と介護の両立コラム 介護休業制度等の改正についてと、それに伴う懸念事項

2024.01.07


令和5年12月26日、厚生労働省の労働政策審議会は厚生労働大臣に対し「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について」建議を行いました。
建議とは、上位の機関や人物に意見を述べることです。

労働政策審議会が厚生労働大臣に建議した内容には、「法的整備も含めて所要の措置を講ずることが適当であると考える」とあります。
言い換えれば、近々法改正が行われる予定を示唆しています。

法改正案にはいくつかの懸念事項があります。施行日は未定ですが、いまからできる準備を考えておきましょう。

仕事と介護の両立における必要な措置の具体的内容

令和5年12月26日「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について(建議)」に付随した報告書から、仕事と介護の両立における必要な措置の具体的内容を抜粋して紹介します。

https://www.mhlw.go.jp/content/001184055.pdf

「介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の周知の強化等」

「介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の周知の強化等」の章では、以下のことが建議されたとのことです。

(1)家族の介護の必要性の申出をした労働者に対する個別の周知等及び環境整備
(2)介護休業
(3)介護休暇
(4)介護期のテレワーク

(1)家族の介護の必要性の申出をした労働者に対する個別の周知等及び環境整備

家族の介護が始まったこと、もしくは今後必要となった従業員に対して企業が行う義務として、以下の3つが決定される見通しとなりました。

【個別の周知及び意向確認】
家族の介護の必要性に直面した労働者が申出をした場合に、事業主が、両立支援制度等に関する情報を個別に周知し、意向を確認することを義務付ける
【早期の情報提供】
介護に直面するよりも早期の情報提供が重要であるため、介護保険の第2号被保険者となる40歳のタイミング等の効果的な時期に、事業主が、労働者に対して、介護に関する両立支援制度等の情報を記載した資料を配布する等の情報提供を一律に行うことを義務付ける
【雇用環境の整備】
事業主が、仕事と介護の両立支援制度の利用が円滑に行われるようにするため、次のいずれかの措置を講じることを義務付けることが適当である。
●介護に関する両立支援制度に係る研修の実施
●介護に関する両立支援制度に関する相談体制の整備
●介護に関する両立支援制度の利用事例の収集・提供
●介護に関する両立支援制度及び両立支援制度の利用促進に関する方針の周知

簡単に言えば、事業者が従業員に対し、しかるべきタイミングで仕事と介護の両立支援制度の情報を提供しなさいという内容です。

(2) 介護休業

今回の建議において、特別大きな変更はありませんでした。先に紹介した制度の目的を理解し、効果的に利用してもらうことを目的とした場合、介護休業可能な期間や分割できる回数に変更を加えないことがベストと判断されたようです。

ただし、現状のまま放置するわけではなく、引き続き制度目的の理解を深める必要があるとも書かれています。
特に「(1)で事業主による個別周知等を行う際には、その制度目的を踏まえることが望ましい旨、指針で示すことが適当である」と書かれているため、従来以上に制度を意識した行動指針などが発表される可能性があるでしょう。

(3) 介護休暇

介護休業の日常的な介護ニーズは、勤続期間にかかわらず存在しています。現在は継続して雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外することができるのですが、たとえ入社間もない従業員であっても介護休暇を与えるのがふさわしいとする内容が報告書には盛り込まれました。

(4) 介護期のテレワーク

テレワークについては、「通勤時間の削減や、遠隔地に住む家族の家からの業務実施が可能となり、フルタイムで働く日を増やすことも可能になる効果が期待される。」としており、介護離職防止に一定の歯止めがかかるのではないかと期待されています。

ただし、「介護中の労働者がテレワークを行うことにより、労働者本人に負担が生じることも想定される」とも記載されています。
これらの総合的な判断として、報告書内では「テレワークについては選択的措置義務とはせず、努力義務とすることが適当である。」と結論付けました。
また、テレワーク困難な業種・職種に関しても、配置転換や部署の新設までは事業主に求めないとする内容も盛り込まれています。

「仕事と育児・介護との両立支援に当たって必要な環境整備」

同じ付随資料に記載されている「仕事と育児・介護との両立支援に当たって必要な環境整備」のうち、介護に関係する内容は以下の通りでした。

(1) 両立支援制度を安心して利用できる制度の在り方の検討
(2) プライバシーへの配慮

(1) 両立支援制度を安心して利用できる制度の在り方の検討

両立支援制度を安心して利用できるようにするため、事業者は制度を利用したいという従業員に対して不当な扱いをしてはいけないとする建議を記載しました。
介護を理由に両立支援制度を利用するにあたり、左遷や解雇などをしてはいけないというものです。

給与に関しても、別途労働条件を設定することを提言しています。
また、作成した労働条件は「事業主の努力義務」によって周知することが妥当であるとも書かれています。

(2) プライバシーへの配慮

介護は非常にセンシティブな問題であるため、その事実を職場で明らかにしたくないという従業員もいるでしょう。
事業者は、これらの事情を抱える者がいることに対して配慮が必要です。
具体的には、相談者の意向を踏まえて共有の範囲を最小限にしたり、本人の意向に沿えない場合には、労働者にその理由を説明したりするなど配慮したりすることです。

現時点で弊社が懸念する6つの事項

ここまで、令和5年末に公開された建議のうち、介護に関係する内容を見てきました。
改善点が多いように見えますが、反面弊社としては気になるポイントがあるのも事実です。特に今回の建議で気になったことを、6つ解説します。

懸念① 介護休業等の利用を促進しているのではなく周知の促進を図る事が目的

今回の建議の内容は、総合すると「利用を控えさせる周知はあってはならないが、利用を推奨する周知でもない」点です。
つまり、今回の建議はあくまでも選択肢の提供であり、介護休業等の両立支援制度は「必要に応じて」活用するもの。
特に重要なことは、介護休業等の制度目的を丁寧に伝えることだと言えるでしょう。

大前提として、介護休業は介護に専念するためのではなく、以下の目的での活用が望ましいことを周知する必要があるでしょう。

●介護に専念するものではなく、仕事に集中するための体制を作るための活用
●介護休暇とは性質が異なるもので、介護休暇はやむを得ず自ら直接的な介護をせざるを得ない時も活用を推奨されている

利用シーンも含めて丁寧に伝えることが大事です。

懸念② 早期の情報提供として「40歳のタイミング」としているが、これは決して早期の情報提供ではない

「40歳のタイミングで周知を義務化すべき」と書かれています。
確かに40歳になれば介護保険の第2号被保険者となるわけですが、それは自分の将来の介護を考えるタイミングであることを混同してはいけません。
40歳になれば、自らの介護のための介護保険料の納付が始まるわけですから、介護保険の基礎知識を学びなおすにはいいタイミングです。

しかし、介護休業等の両立支援制度の利用における介護対象者は自分以外です。
「40歳のタイミング」は働く介護者になる目安ではありません。実際にはもっと早い段階での情報提供が望ましいと弊社では考えています。

懸念③ 介護期のテレワークに対する認識の統一

介護期のテレワークに関する建議に、「通勤時間の削減」「遠隔地に住む家族の家からの業務実施が可能」という言葉が使われています。
これは、あくまでも働くことが主であることの理解の促進が必要であり、テレワークの導入により「労働者の時間や体を使った介護に勤しみやすい」と解釈してはいけません。

もちろん、必要に応じて致し方なく労働者の時間や体を使った介護をすることで、就業に影響が出ることはあります。
ただし忘れてはいけないのは、両立支援制度は働くことが主であり、労働者の時間や体を使って介護をするための両立支援制度ではないことを理解しなくてはならないでしょう。勘違いを起こさないように、伝達する事業者レベルでの認識統一が必要です。

懸念④ 雇用環境整備

雇用環境整備においては、介護に直面した労働者の権利を守るために、介護に直面した労働者の職場で一時的に業務負担が増える従業員への配慮が不可欠であると考えます。
「同僚の仕事を増やしてしまっている」という理由で介護者に肩身の狭い思いをさせないよう、雇用環境を守る努力や仕組み作りが必要です。

懸念⑤ 逆効果になる可能性を踏まえた取り組みの実施

上記の懸念事項を理解したうえで、正しく周知できる人材を育成することが重要だと考えます。
間違った周知をすれば「逆の結果になる可能性のある」「慎重に取組まなくてはいけない義務化」であることを理解しなくてはいけません。

懸念⑥ 法改正にともなう「義務化」の周知徹底

義務化ですから、知っていて取り組まない経営者は論外としても、法改正の情報を全国津々浦々まで届けることが何よりも重要です。
社労士や税理士、弁護士などの士業の協力の他、経済団体や労働組合、商工会議所や経営者団体、経営者勉強会など、さまざまな団体の協力をいただく工夫も必要なことだと思います。事業主任せにするのではなく、他団体の力を借りて義務化の周知徹底を図る仕組みが必要です。

法改正に備えて

法改正の施行時期は未定ですが、この度の法改正の内容は企業の仕組み作りが肝です。
逆に言えば仕組みさえつくれば、とりあえずの義務化対策は万全です。
弊社では日本における介護不幸ゼロを目的とした、介護離職防止並びに仕事と介護の両立支援に取組む企業様を全力でサポートいたします。

企業の経営者並びに人事部向けに、企業における周知の義務化に備えた仕組み作りのノウハウや法改正の内容理解促進のための無料研修を行っています。
弊社の特長である「わかりやすさ」を体感していただく絶好の機会です。
今後の貴社の仕事と介護の両立支援のサポーター選びの参考にしていただければ幸いです。

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