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仕事と介護の両立コラム 仕事と介護の両立支援において「仕事としての介護」と「家族としての介護」の違いを理解することの重要性

2019.08.08

介護の専門職である介護職の介護と、家族介護者の介護の違いについてきちんと理解しておくことが、仕事と介護の両立支援を行うにあたり大切なポイントとなることを解説いたします。

■仕事と介護の両立と介護保険制度

我が国では、2000年に介護保険制度がスタートしました。
介護サービスを契約し利用料を支払う、という介護サービスの利用方法がこれまでの「措置」から「契約」に変わりました。
いわゆる介護は、まず利用する側がサービス内容や提供する事業者を比べ選択するします。次に、事業者と契約しサービスの利用を開始します。そして、利用料を事業者へ支払う、というシステムに変化したのです。
この介護サービスを契約し利用する、というシステムへの変化は、介護は家族が担う、という考え方を色濃くした原因の一つかもしれません。なぜならば介護の入り口に対して、ある意味「自動」だったシステムが「選択」システムになったがゆえに、「選択」という行為をしなければ、「自動的に」家族が抱えることになるからです。この介護のシステム変更が、日本の家族構成・労働人口の構成とミスマッチだったがゆえに、仕事と介護の両立を考えるきっかけになったのではないでしょうか。
このように我が国の「介護」は、介護保険制度のスタートと共に大きく変化しました。そして、仕事と介護の両立を考える上でとても重要な制度となりました。

■仕事としての「介護」と家族としての「介護」

同時に「介護」そのものも同じく変化しています。
まず、介護はそれまでの措置ではなくなったわけですので、以前よりも介護サービスはより商品やビジネスとして展開していきます。
福祉や医療としての専門性や専門職としての知識や技術に対価が払われることから、それらに対しより高度なものを求められるようになったことはもちろんです。介護業界にとって介護はサービスを提供するための「手段」となりました。家族介護者にとっての仕事と介護の両立とは違い、介護業界においては介護そのものが仕事というわけです。
一方、介護業界にとっての介護ではなく「要介護者を抱える家族にとっての介護」「仕事と介護の両立を考える働く介護者の介護」を考えてみます。
近年、家族介護は家族の誰もが担う可能性が出てきました。そして、家族の誰かが病気や障害を患い、概ねある日突然はじまるのが家族介護の現状です。
では、家族にとっての介護は、介護業界にとっての介護とどう違うのでしょうか。
そのヒントは、介護が起きている場所にあると考えられます。家族にとっての介護、それは家族の「日常生活の中」にあります。何気ない日常生活の中で、概ねある日突然起こるのが家族介護です。家族にとっての介護は、要介護者、その家族の「生活」の中に起こります。
同じ「介護」と一言に言っても、介護業界の介護がビジネスを展開するための「手段」であることと、家族にとっての介護があくまで要介護者や家族介護者の「生活」の一部であることは、大きく意味が違うのです。

■家族介護者の想いに寄り添うことで、仕事と介護の両立支援の質を上げる

介護業界の介護の専門職が利用者としての要介護者に行う介護も、家族介護者が要介護状態となった家族へ行う介護も、どちらも「介護」であることに間違いないでしょう。
しかし、仕事と介護の両立、介護離職防止を考えるにあたり、その双方の介護に「想い」の部分で違いがあることは、家族介護者、仕事と介護の両立に取り組む働く介護者の相談を受ける場合、介護者支援を行う側がきちんと理解し、丁寧に認識しておくことは重要でしょう。
家族介護者の相談は、介護業界の介護の専門職が考える介護ではすべてが片付かないことも少なくないからです。
例えば、在宅介護から施設入所への移行を検討する相談の場面を考えます。
家族としてのデリケートな想いや感情を考えず、実質的な言葉かけを行ってしまう。
仕事と介護の両立に取り組む働く介護者としての家族の生活を考えて、つい第三者として冷静な言葉かけになってしまう。
例え故意にではなくても、入所の決断にゆれる家族介護者の気持ちをさらに乱すようなことに繋がってしまう状況が起こるかも知れません。
実質的な、冷静な判断としては間違ってはいない場合でも、必ずしもそれは家族介護者の介護に対する想いに寄り添うものになっているかどうかはわからないこともあり得るかと思われます。
仕事と介護の両立支援や介護離職防止に取り組むにあたり、実質的な介護の手段を紹介したり、繋いだり、制度利用を勧めることがあるでしょう。それはもちろん間違いではありません。
しかし、ただそれだけではなく、家族介護者が今何を求め、何が故に心が揺れているのか。家族介護者としての想いに寄り添うことは、介護者支援の質を上げる上で大切な視点になるでしょう。

■「仕事としての介護」と「家族としての介護」の違いを理解する

同じ「介護」でも、家族にとっての介護と仕事としての介護は違います。
仕事と介護の両立支援、介護離職防止を考えるとき、この違いを適切に押さえておくことはとても重要です。
もし、介護業界の介護、先で述べたビジネスの手段としての介護を家族介護にそのまま当てはめてしまうと、どうでしょうか。
まして仕事と介護の両立、介護離職防止への支援の場面で、家族介護の「介護」と介護業界の「手段」を間違えてしまうと、家族介護者にとっては受け止め難い気持ちにもなるかも知れません。
なぜなら、繰り返しますが、家族にとって介護は日常の中の「生活の一部」なのです。
家族介護者の介護には、要介護者である家族に対する、そして家族の日常生活に対する、家族としての「想い」があります。その想いは介護を仕事とする介護業界の専門性や専門職としての知識や技術への想いとはまた違ったものであるからです。
仕事と介護の両立支援、介護離職防止に取り組むにあたり、この違いを理解しておくことは、働く介護者の精神的なサポートの上で、とても大切なことではないでしょうか。

毛利紗代(もうりさよ)写真

毛利紗代(もうりさよ)

1976年生まれ
50代で若年性認知症を発症した父親を介護するシングルケアラー
気づけば介護者歴十数年。その間に自身も介護離職を経験する。その後、再就職・転職をしつつ、現在、仕事と介護の両立を実行中。
自分と同じシングルケアラーとの出会いに救われた経験をもとに、介護者支援活動にも取り組む。

■参照
厚生労働省
市町村・地域包括支援センターによる
家族介護者支援マニュアル~介護者本人の人生の支援~
【参考資料】
アセスメントシート・チェックリスト例
www.mhlw.go.jp/content/12300000/000307003.pdf

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